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少年院で「飲酒運転が犯罪だって知らなかった」という声も…厳罰化しても飲酒運転が起こり続けるワケ

「飲酒運転は110番」2023年は2050件もの通報が

次の被害者を少しでも減らすためにできることはないのか。山本氏は福岡県の条例を挙げる。 「福岡県では、全国で唯一『飲酒運転を見かけたら110番』という条例を制定しています。この条例では通報することは『県民の義務』です」 努力義務ではなく「義務」としている部分からも県の本気度が伺える。例えば、自宅で軽く晩酌した父親がコンビニまで車で買い物しにいくと出ていった場合、それを見ていた家族は通報する義務を持つ。これまでは家族の関係性によっては強く止められず、黙殺を余儀なくさせられていた事例が、条例によって表に出てくるようになるということだ。 「2022年の通報件数は2050件で、多かったのが家庭内通報でした。『うちのお父さんが、お酒を飲んで車に乗ろうとしています』といったものですね。どこにも声をあげられなかった人たちが、報せられるツールになっているんです。おまわりさんたちも、通報のハードルを下げるため『間違っていてもいいんです』と呼びかけています。法律が厳しくなるよりも、こちらの方がより効果的ですし、法改正するより効果が早く出ますよね」 会社の飲み会帰り、先輩や上司などを直接止めにくい場合にも有用だ。また、「顔が赤く千鳥足で駐車場の車に乗り込む人を見た」「雨なのに不自然に窓を開けて走行している車がある」などのケースでも通報していい。

関係性の悪化を恐れてはいけない

福岡県以外では、飲酒運転である確信が持てなかったり関係性の悪化を恐れて通報できないケースがあるという。山本氏の長男の命を奪った事故でも次のような状況があったようだ。 「(加害者が)お酒を飲んだのは、会社の飲み会だったそうです。本人は、お酒を飲みすぎた感覚もあったようですが、翌日も朝から仕事があるので運転して帰ることにしたそうです。周囲はなぜ止めてくれなかったんだろうと思いました。でも、現実は飲み会の参加者の中に、飲酒運転で帰っている人が複数人いたそうです」 山本氏は、飲酒運転撲滅には「思いやり」が大事だと話す。 「飲酒運転する人だけではなく、周りで見ていた人たちも同じ罪だと思います。飲酒運転の事故は被害者だけでなく、加害者の人生も大きく変えます。だから、周囲の人も、被害者を出さないためだけでなく、自分の家族や友人が加害者にならないためにも、思いやりをもって全員で止められる社会になることが大事です」 関係性の悪化を恐れる声もあるが、それはひとえに不幸になる対象を増やさないためである。当然ながら致し方ないことだ。 「お酒を飲んでいる時点で、本人にはいわば麻酔がかかった状態なので、本人に運転するかしないかの判断を任せてはいけません。そういう意味でも、周囲がきちんと止めることが本当に大事なんです」
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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