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職場の“陰湿なイジメ”を受け続けた塗装社員の悲運「学校からも職場からも逃げ出すことができなかった」

学校に居場所がなかったあの頃と重なる

 それは、小学生から中学生にかけてと同じ状況だった。授業に集中できず先生に注意される日々を送っていたSさんは、やがて教室に入りづらくなり、ヤンチャな子たちと時間を共にするようになる。けれど、根がやさしいSさんはカツアゲもケンカもできない。 「ヤンチャな子たちからすれば、根性のない、ただの腰抜けみたいな感じです。だんだんといいように使われるようになって、中学2~3年生ぐらいは、よく『学校に行きたくない』と両親に訴えていました。でも、通らない。両親は、Sを無理やり学校に行かせました」  その頃ぐらいから、Sさんは家庭内でモノに当たるようになり、ときには両親に飛び掛かることも。伊月さんが怒るとおとなしくなったが、「感情のやり場がなく、苦しそうな様子だった」と言う。そしてSさんは、塗装系の会社に入るまで家出を繰り返している。 「途中、親の知り合いだった塗装系の会社の社長は、Sがイジメられていると気づいて、職場の人たちに『陰でコソコソするな!』と注意してくれました。でも、それが逆効果。社長にバレないよう陰湿な行為が繰り返されていたと、職場の人が教えてくれました」

ずっと苦しんでいたのでは?

 だが、Sさんがそのような状況にあったことを知ったのも、すべては亡くなったあと。職場の人は、「自分が同じようにイジメの対象になるのが怖かった。申し訳ない」と涙ぐんで謝罪してはくれたが、「仕方ないとは思いつつも、腹立たしかった」と伊月さんは話す。 「Sは、ずっと苦しかったのではないかと思うんです。もしかしたら、精神的な疾患を抱えていたかもしれないし、通っていた学校や働いていた職場環境などが合わなかっただけだったのかもしれない。でも、学校からも職場からも逃げ出すことができなかった…」  さらに伊月さんは、「本当は、逃げるという選択肢もあったはず。自分が難しいことや得意なことを知って、違う環境に身を置いてみることもできたのではないかと後悔しています。もっと私も、意見を出すべきでした」と後悔する。 「Sを発見したのは、塗装会社の社長でした。警察の話では、遺体の近くにはシンナーとビニール袋があり、顔がパンパンに腫れ上がっていたことから、薬物死の疑いもあったと告げられました。これは憶測ですが、働いていた塗装会社から盗んだのかもしれません」
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Sさんが亡くなって思うこと
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ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。Twitter:@natukawanatumi5
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