2022年6月に施行された「AV出演被害防止・救済法」（通称・AV新法）。2年以内という見直し時期を目前にして、「この法律は現実にそぐわず、問題が多い」とAV女優たちが立ち上がった。2月23日、100人のAV女優らと、この活動に賛同する演出家のテリー伊藤氏（74歳）が銀座の街をデモ行進したのだ。 「AV女優の人権を守るため」に施行された法律が、なぜ当事者たちを苦しめているのか。いったい何が問題なのか？　テリー伊藤氏と業界歴５年以上のベテラン女優、綾瀬麻衣子（51歳）と佐々木咲和（33歳）の３人が語り合った。 ＊　＊　＊ 　デモ行進に参加したテリー伊藤氏はAV新法について「精査されずにできた法律。施行された後、弊害が出てきた。仕事を失った女優がいる。彼女たちは自分の体で勝負をしている。AVは立派な職業。助けてあげたい」と声を上げた。 テリー伊藤（以下、テリー）　AV新法は、AV出演者の話を聞かずにできた法律だと聞きました。施行前から出演していた女優さんにどのような問題があったのか直接聞いてみたいと思ってたんだけど…………まずは、お二人のことを聞かせてください。そもそも、なぜAV女優になったの？ 綾瀬麻衣子（以下、綾瀬）　私は元々、18歳でグラビアアイドルになったんですが、そこからAVのお話をいただいて。性的なことへの興味と若気の至りでデビューを決めました。その時の活動期間は１年ほどで、その後は結婚して主婦になったんですが、再び表舞台に立ちたい、女優としての人生をまっとうしたい、という思いが昂ってしまって。40代で再デビューしたんです。 佐々木咲和（以下、佐々木）　私は10代の頃から性的なことに興味津々でAVが好きでした。こんなことを大っぴらに言うと「変わってる」と言われそうだけど、私にとっては憧れの仕事に就いたと思っています。 テリー　ということは、AV新法の正式名称は「AV出演被害防止・救済法」というようだけど、そもそもこの名前には違和感がありそうだね？ 綾瀬　違和感、ありまくりです！ 佐々木　私も！　だって私、被害者じゃないし。助けてもらいたいわけでもない！ テリー　じゃあ、この法律ができた背景はなんなんだろうね？ 綾瀬　AV新法成立のきっかけとして一番よく聞くのは、2022年4月に成人年齢が18歳に引き下げられたことで、高校生を含む被害者の増加の懸念があったようです。 佐々木　あと、過去にAV出演の強要被害に遭った女優の告発も大きかった。 テリー　成人年齢引き下げで生じる懸念は、本当にその通りだと思う。一方で、AV出演の強要被害に遭った女優というのは、佐々木さんや綾瀬さんは見聞きしたことがあるの？ 綾瀬　そういう女優は過去にはいたかもしれません。でも、私は見たことも聞いたこともありません。 佐々木　私もないです。昭和や平成の初期にはあったのかもしれないけど、ここ10年ほどでそういう話は聞いたことがありませんでした。 テリー　綾瀬さんや佐々木さんにとって、この法律のどんなところが不服なんでしょうか？ 佐々木　まず今回の法律で出演契約書を結ぶ必要ができたのですが、そこから１か月間は撮影しちゃいけないのと、さらに撮影終了後も４か月間は公表してはいけないんですね。なぜそんな期間を設けたかといえば、出演強要などの問題が浮上したために、本当に出演が嫌だった場合など、考え直す期間が必要だろうという配慮のためなんですが……。 綾瀬　契約書の義務化や熟慮期間ができる前までって、お仕事の発注はもっと臨機応変にやってたんです。撮影前日に「主演が体調不良で来られなくなったから、代役を探してるんだけど明日来られる？」みたいな感じで、仕事が舞い込むことがあったんです。 佐々木　私たち女優は個人事業主としてプロダクション（事務所）にお仕事のマネジメントを委託しているという立場です。だから撮影のお仕事がたとえ前日にでも舞い込むことは、とてもありがたいことだったんです。 綾瀬　もちろん、契約書ができたことで撮影内容が見える化されて、お互いの認識も明確になるなど、良かった点はあります。でも、女優歴が長い私や10年以上年になる佐々木さんのような女優さんは、４か月もの考え直す期間は不要だと思うんです。 テリー　なるほど、契約書を結んだら早く撮影して、別の撮影を次々とこなしていきたいというわけだね。 綾瀬　ベテランはそうです。あとAV女優には大きく分けて３つの種類があって、AVメーカーの「専属女優」、メーカーには所属しない「企画単体女優」、作品に名前も出ない「企画女優」の３つです。実は私、元々はマドンナという熟女メーカーの専属女優で、新法施行前の５月17日に契約が切れたんです。 　通常専属契約が切れた後というのは、女優にとって一番「売り出し」のタイミング。業界用語で「ぶん回る」というんですが、あちこちのメーカーさんからの依頼に答えてぶん回るんですが、知名度を上げられるチャンスの時なんです。なのに……ＡＶ新法が６月15日に施行されるという話があったために、どのメーカーさんからも「撮影はまだできない」と言われ、ほとんど仕事ができなかったんです。 佐々木　綾瀬さんは、その煽りは大きかったよね。私は一度も専属女優になってない知名度低めの企画女優だから、やっぱり、主演女優の代役出演で入る仕事がとても貴重でした。もしその仕事で監督さん達の信頼を得られれば、次は私に頼んでくれる可能性もあるわけで。「代役出演は仕事獲得のチャンス」だと思って頑張っていた。だからこそ代役出演ができなくなったのは新法による被害です。

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テリー　話を聞くと、やはり女優歴の長い方にとっては不利な法律だよね。 佐々木　はい。かなり不利です。仕事の機会を失いましたから。私の知り合いの企画女優の子は、AVの仕事が入らないばかりに困り果てて、誰にも相談せずに海外出稼ぎという道を選んでしまった。ｌｉｎｅもＳＮＳもぷっつり音信が途絶えてしまい、連絡がつかない状況にあります。 テリー　海外出稼ぎって何？ 佐々木　海外で外国人を相手にした違法売春です。その子とは、もう１ヶ月以上、連絡がついてない状態で……。 綾瀬　違法なことに手を染めるのはいけないことだけど、４ヶ月後の撮影の後の発売を待てないからということで、お金をとっぱらいでもらえる無修正の同人AVに出演する子も少なくないです。 テリー　同人AVって何でしょうか。 綾瀬　個人で撮影・販売しているAVが同人AVと呼ばれています。例えばみなさんご存知のソフト・オン・デマンドといった大手AVメーカーから出てるAVは、審査団体を通して流通・販売されているいわゆる「適正AV」です。でもそれ以外に世の中には審査団体を通さず、敢えて薄いモザイクにしたり、無修正海外サイトで公開しているものもあります。このような動画は出演者の同意を得ているかどうかが定かではなく、取り下げ等の連絡もできなかったりして、悪質な同人ＡＶと言えます。 テリー　かつて19世紀のアメリカの禁酒法が政策されて、工業用アルコールを原料にした粗末な模造“ジン”のような密造酒が流通した流れと似ているね。 佐々木　そうですね。やはり法の裏をかいて、そういうことをする方達はいつの時代も存在すると思います。 綾瀬　はい。そういう方達は契約書なども結ばないし、ましてや熟慮期間なんかも設けず撮って出しをしています。 テリー　AV新法の弊害はそういう新たな悪を作ってしまったところだね。 綾瀬　まさにその通りだと思います。 佐々木　私たちも、契約書を廃止してほしいなんて思ってないし、熟慮期間は新しい人には必要だと思っています。 綾瀬　でも、例えば出演者全員から申し出があれば、契約書を結んでから撮影を公表できるまでの期間を任意に短縮できるなどしてほしい。もっと柔軟化をしてほしいということなんです。 佐々木　それもそうですし、やはり無数にある同人AVの中の違反者の調査などもしっかりと行なってほしい。 テリー　なるほどね。でも僕なんかが思うのは、ベテランの女優にまで熟慮期間を強いるなら、国はなぜ補償を出さないのだろうね。これって、「仕事するな」って言ってるようなものなのに。行政が労働者に仕事をしないよう求めるなら、補償とセットが常識でしょう。 佐々木　補償は考えたこともありませんでした。でも、補償が出るなら、まさに私たちのための救済法であると言えます！ 綾瀬　本当に。補償とまでは言いませんが、とにかく今のままでは厳しすぎます。だからこそ、私たちはＡＶ新法の改正を求めて、国会議員の賛同を得るための署名運動をしています。 ＊　＊　＊ 参議院議員の浜田聡事務所の調べによると、AV新法施行前の2022年４月から６月の販売本数が1387本で、施行後の11月から1月は1077本に減少したとのこと。また小さなメーカーが10社近く倒産したり、SNSなどでの同人AV募集の書き込みが急増し、明るみにはなっていないものの20歳未満の女性が多く流入したと予想される。誰のための法律なのか、今年６月の法改正には10万筆の署名が必要だ。

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＜提供／AV産業の適正化を考える会＞