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2024年「冬ドラマBEST5」最終回まで観て選定。4位『さよならマエストロ』、『厨房のアリス』は3位

1位『不適切にもほどがある!』(TBS)

番組公式HPより

 脚本家のクドカンこと宮藤官九郎(53)磯山晶プロデューサー(57)の才能とセンスが炸裂した。2人の作品は14作目だが、おそらく最高傑作だろう。  主人公は1986年から現代にやって来た中学教師の小川市郞(阿部サダヲ)。公衆マナーをわきまえず、精神論を振りかざす典型的な昭和男だったが、徐々に現代の良いところを見習う。一方で現代人側も人情味がある市郞が憎めない。  評判の良いドラマも最終回には不満を残してしまいがちだが、このドラマは最終回がピークであり、それまでの疑問点や謎も一掃した。全体のテーマも明らかにした。  最終回で特にポイントだった場面は4つ。まず、市郞の孫である渚(仲里依紗)が1986年に訪れ、母親の純子(河合優実)と喫茶「すきゃんだる」で会う。純子は渚が5歳だったとき、阪神・淡路大震災(1995年)で亡くなった。このため、渚には純子の記憶があまりない。しかし、この場で渚の職場での部下との衝突の話を聞いてくれて、励ましの言葉も与えてくれた。 「その子、今ごろ後悔しているよ」(純子)  母とのふれあいに渚は涙し、食べていたナポリタンのケチャップを口の端に付けてしまう。それを純子はやさしく拭う。映像は若き日の純子、幼いころの渚に変わっていた。

昭和も令和も全否定せずの最終回

 NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年度上期)もそうだったが、悲劇を売り物にすることを避けるクドカンは、今回も純子が震災で絶命するかどうかを曖昧にした。しかし、渚には母の思い出が加わった。  一方、市郞は令和での経験でバージョンアップし、1986年の教育現場に戻る。そこでは校長が理不尽にも女装趣味が理由で辞職に追い込まれていた。後任(宍戸開)の昭和的教育論に市郞は猛反発する。 「どっかで聞いてきた精神論を当てはめて、それで終わりでいいの? あの子たちが30年後、40年後の未来をつくるんだよ」(市郞)  自分の考え方を押し付けるなというのは当時の教員たちだけに向けられた言葉ではなかっただろう。  ミュージカル場面ではハナ肇とクレージーキャッツによる「ドント節」(1961年)を下地にした歌を全レギュラー陣で歌った。この歌詞がドラマに通底するテーマをほぼ全て網羅しているという趣向だった。 ♪もっと寛容になりましょう――♪どんと許しましょう――♪ちょっとのズレなら グッと堪えて 多様な価値観 広い心で受け入れて――  昭和も令和も全否定せず、正しい生き方も提示しなかった。ただ、価値観の違う人間同士が同じ時代で暮らすためには寛容が肝要と呼び掛けた。  そして市郞は卒業していく教え子たちに対し、令和から1986年に潜り込んだCreepy Nutsによる「二度寝」を聴かせる。主題歌である。 ♪エスケープしてみたい このバスに乗って未来へ いや はるか昔 まぁどっちもとんでもない――  この歌は文字通りの主題歌だった。同時に生きづらさをおぼえる人たちへのエールでもあった。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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