“物語る人”であることが魅力の一つに
川口春奈という俳優の魅力はなんだろう。ぼくは、
彼女が絶えず物語る人であることだと思っている。キャラクターのバックグラウンドをさまざまな仕草で丁寧に織り込むだけでなく、キャラクターを演じる川口の背景にも物語る意思があって、それがオーラみたいに広がっている。
川口がちょっと歩きだしただけで、その一歩ずつがポイントとなり、振り返れば、そこにはひとつのプロット(筋)が流れている。みたいな人だと思う。だから、
ぼくらはドラマ全体としての物語を楽しみながら、同時に川口の演技レベルで物語られるストーリーを適宜オーバーラップしながら見ている。川口が演じる役柄の味わい深さはおそらく、そのため。
象徴的なのは、共演者である松下洸平の存在。元彼の言葉を気にしてぷらぷら歩いていると、ふと川辺から歌い声が聞こえる。声の持ち主は、謎の雰囲気を醸すコウタロウ(松下洸平)。松下もまた物語る人の代表格みたいな人だ。2008年にシンガーソングライターとしてデビューし、歌心としての気持ちを乗せることに長けている彼は、歌を歌うように台詞を吐く。
背景に物語が広がる川口に対して、ボーカルでもある彼の完璧なフレージング感が、マイクに向かわせて常に前へ前へ物語ろうとする。ストーリーとは別に、もうひとつの松下洸平物語を紡ぐのだ。
アサヒ生ビールのCM「出張とおつかれ生です。」篇を見ると、カウンター席の松下がビールを一口飲んで「はぁぁぁ~」ともらす一言というか、一音の持続だけでもうなんかドラマを感じてしまう。ならば川口が出演するビールCMはどうかというと、これが短編小説の切れ味みたいな痛快さで、エールビールの喉越しを伝えてくれる。川口が歩いてきてすでに物語は静かにたちあがり、それを松下がキャッチして歌い継ぐ。
それぞれの特性を活かして物語る俳優同士が共振する瞬間が素晴らしいのだ。
ちょうど10歳ずつ年がはなれた3姉妹が夜毎集うおおば湯の休憩室で、真ん中を陣取ってビールを飲む七苗から再びモノローグがもれる。さわやかな孤独として響くのは、物語る人の白眉といえるワンシーンだからだろう。
というわけで、仕事の人であり、物語る人であり、ビールを飲む人でもある川口だが、
もうひとつ彼女は、食べる人でもある。休憩室で2本目のビールを飲みながら、七苗が食べているのが、牛丼。その食べっぷり(!)。
『着飾る恋』でも川口の食べっぷりが話題だった。同作第2話、横浜扮する藤野駿が作った料理を一口。広いシェアハウスの天井まで「んっま」が響く。
この一言に集約されるその食べっぷりが、食べる人としての川口春奈を揺るぎないものにしている。川口が食べ物を口に運ぶときの大胆さを見て思い出すのは、
『食べて、祈って、恋をして』(2010年)のジュリア・ロバーツだ。
かたことのイタリア語を頼りに現地のポモドーロを一息に頬張るジュリア・ロバーツの解放感が川口春奈にも息づき、まさか日本の銭湯を舞台にしても似たような生命力ある食の場面が見られるとは思わなかった。七苗の姉・成澤六月(木南晴夏)が、イタリアで食べたパスタについてたわいもなく話す場面は、偶然の目配せと理解しつつ、ロマコメ作品の主人公同士が食べる人として類似する、
こんな贅沢で国際的なドラマの楽しみ方をどう享受したらいいんだろ……。
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:
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