食べっぷりも話題に…川口春奈出演『9ボーダー』が“最近流行りのドラマ”と一味も二味も違う理由
テレビドラマ作品全体を通した物語の魅力がある一方で、キャラクターを演じる俳優自身が醸し、物語るストーリーというのもある。その意味で川口春奈とは、まさに物語る人だと思うのだ。
毎週金曜日よる10時から放送されている『9ボーダー』(TBS)では、10歳ずつ年がはなれた三姉妹が、それぞれの世代ごとに悩める人生を考える。中でも川口扮する次女の悩みは尽きない。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が物語る人であり、食べる人であったりもする本作の川口春奈について解説する。
主人公が、雄弁かつボソボソぼやきで心中を吐露するモノローグ表現がテレビドラマのトレンドとして多用されるここ数年、『中学聖日記』(TBS、2018年)や『恋はつづくよどこまでも』(TBS、2020年)などの金子ありさ脚本世界が、最後の砦だとぼくは思っている。金子作品の主人公たちは、繊細に絡まった感情の襞を簡単には解こうとせず、慎重になりながら、心中をやすやすとぼやかない。そのためモノローグの使用は第1話冒頭程度。必要最低限の文字数だからしみるものがある。
川口春奈主演の『9ボーダー』では、冒頭すぐ主人公・大庭七苗のモノローグが流れる。本作のメイン舞台となる銭湯「おおば湯」前、「そのあまりに唐突で……」という川口トーンがしみる、しみわたる。それが単なるぼやきではなく、格別のモノローグがさりげなく使用されるのは、金子作品と川口の関係性を考えればわかること。
横浜流星との共演作『着飾る恋には理由があって』(TBS、2021年、以下、『着飾る恋』)の最終話がやっぱり忘れがたい。「頑張れ」という短いフレーズで川口が極限の吐息まじりにふるわせるつややかな情感と質感は、どんなに饒舌で文学的なモノローグ表現でもたぶん及ばない。その上で『9ボーダー』冒頭のモノローグ自体がパンチラインとなる。作品間を越境して響き合う川口春奈の豊かな表現性にぼくらはどこまでも感動してしまう。
そう考えると、『9ボーダー』は、『着飾る恋』の姉妹編的なドラマとして捉えられる。時代の先をいくインテリアメーカーでチャキチャキ働く頼れる広報担当だった川口が、今度はプロデュース会社の副部長になる。この出世は見逃せない。同じ脚本家の作品に再度出演し、役柄を通じてステップアップする。うん、風通しがいい。さすがは、我れらが川口春奈である。
でもどうやらキャラクターの内面世界はそうでもないよう。『9ボーダー』の大庭七苗(川口春奈)は、『着飾る恋』の真柴くるみ同様に相変わらず、人生にモヤモヤぎみだ。職場での活躍が期待されるのは嬉しいが、「貫禄あるな」といって部長の新浜良則(岩谷健司)からは、29歳のところを30歳だと逆サバ読みされるし、プロデュースする現場店舗でばったり会った元彼(塩野瑛久)からは、「仕事ばっかりじゃ寂しいもんな」といわれてしまう。元彼が待ち合わせていたのが結婚したばかりの妻で、七苗は思わず、別の指につけていた指輪を左手の薬指につけかえる。出世はするが、ぶかぶかの指輪を婚約指輪だと偽り、強がる七苗の人生には、寒風が吹いている。
そんなキャラクターを風通しのいい川口が演じるから味わいがうまれる。元彼の妻がすかさず指輪を見て結婚してるのかと尋ねてくる。七苗は、「まだではありますが、そろそろ近いような、そうでもないような……」となんとも曖昧な返答をする。なるほど、この曖昧な心地よさが、川口の持ち味なのかもしれない。
金子ありさ脚本世界が「最後の砦」だと思う理由
“風通しがいい”川口春奈
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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