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食べっぷりも話題に…川口春奈出演『9ボーダー』が“最近流行りのドラマ”と一味も二味も違う理由

“炭鉱のカナリア”になることができる俳優、川口春奈

国際的だなんてちょっと飛躍が過ぎるかと思いながら、本作が提示する身近で切実なテーマにグッとくる。耳に優しい川口のモノローグがあり、松下洸平の心地いい歌声があって、次にどうも耳慣れないワードが入ってくる。 ハラスメントはハラスメントでも、上司が部下の負担を減らし、ハラスメントに過剰に対応し過ぎるとホワイトハラスメントになるらしいのだ。良かれと思ったことが、こんな裏返しになる時代の新しいハラスメント概念。七苗は、後輩の西尾双葉(箭内夢菜)にコンプライアンス室に駆け込まれ、新浜から注意を受ける。プロデュース店の一周年記念パーティー会場に入るとき、七苗がぶつぶつ「ホワハラって何。何でも、ハラハラハラ……」というのだが、否が応でも社会の変化を感じてしまう。上下ふたつの世代のちょうど間にはさまれる七苗のようなアラサー世代はどうふるまうべきなのか。 「まだではありますが、そろそろ近いような……」という台詞が象徴していた川口の曖昧さなら、うまく余白を作りながら前に進めるかもしれない。SEKAI NO OWARI「陽炎」のサビが流れ、三姉妹それぞれの孤独が浮き彫りになる第1話クライマックスを見て思う。『着飾る恋』の「頑張れ」の必殺フレーズ発動の瞬間も星野源による主題歌「不思議」のR&Bフレイバーなメロウネスが川口のエモーションを高めていた。一方の「陽炎」では、こぼれたビールを右手親指と人差し指だけでつまむように飲む川口の清濁ないまぜのワンショットが際立つ。この場面を見て、アラサーの葛藤を体現し、時代の変化を身をもって察知する“炭鉱のカナリア”になることができる俳優は、川口春奈しかいないと強く思った。 <TEXT/加賀谷健>
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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