更新日:2024年05月10日 10:14
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巷のインドカレー屋が急増する“悲しい裏事情”。日本向けにローカライズされた魔改造ナンも

“魔改造“ナンも…インドでもネパールでもない「日本人向け」メニュー

ごまナン

ごまナンとバターチキンカレーのセット

室橋さんによれば、じつはインネパ店で出されるカレーは、本当のインド料理でもネパール料理でもないという。一体どういう意味なのだろうか。 「インネパ店で出されているのは北インドのカレーを外食風にアレンジしたちょっと濃い目の味付けのものです。グレイビーでリッチな感じ。あまり一般家庭で食べるものではないんですよね。そもそもナンやタンドリーチキンっていうのは、タンドールという釜がないと焼けないので……ネパール人が普段食べているものとは全然違います。ネパール人はご飯にダル(豆の汁)がメイン。カレーの味付けはスパイスの量も少なく、野菜や高菜、アチャールという漬物や発酵ものが多いので、どちらかというと日本人の食文化に近い。日本に来てナンを初めて食べたというネパール人も多くいます」 そんななか、インネパ店でもお客がよく入る店とそうじゃない店の差があるそうだ。その違いを聞いてみた。 「インド料理店でも店によって工夫されてるところがだいぶ違っていて、お客さんを意識していろんなものを出しています。そこで生まれたのが魔改造ナンですよね。魔改造はやっぱネパール人のしなやかさというか、柔軟性の象徴みたいなところがあるんじゃないでしょうか。 インド人から見たらチョコナンとか、もしかしたら許せないのかもしれない。でもネパール人はそこをあんまり気にしない。やっぱり日本人にいかにウケるかってところが大事。あくまで稼ぎに来てるわけで、日本人のお客さんを掴むためだから、いろいろ考えてメニューを開発していますよ」
“魔改造”ナン

インネパ店で出される“魔改造”ナン(左:明太子ナン、右:あんこナン)※提供写真

アメリカ人が食べる寿司、カリフォルニアロールのような感じというわけだ。本場のインドには魔改造ナンは存在するのだろうか? 「こないだインドに行ったときにいろんな店で食べてきたのですが、チーズナンくらいはありますね。でもインドのものは上にチーズが乗せてあってピザのようなものでした。日本のチーズナンは中に挟んであるじゃないですか。 正直、日本のほうがぜんぜん美味しかったですね。カロリーはすこし気になるけど(笑)。ちなみに本場のナンは日本のナンほど大きくないですね。一説によると、日本人は“映え”を意識するから、なるべく大きくしろっていわれてるのだとか。現地の人はもっとうすっぺらいチャパティとかを食べているので、ナンは外食時の食べ物って感じですね」

日本語が飛び交う、移民の里「バグルン」へ行って

バグルン

ネパールのバグルン ※提供写真

日本に出稼ぎにやってくるネパール人は、山奥に存在する「バグルン」の出身者が大半だという。室橋さんは本の執筆にあたって現地へ足を運び、自らの目で確かめてきたそうだ。 「出稼ぎや海外留学を斡旋してる看板や情報が街中に溢れていました。だからか、若者のほとんどが出てしまってる感じです。いたとしても同じように出たいと思っているか、ビザの申請中とか。 特に田舎の村に行けば行くほど目立つのは老人と子供ばかりでしたね」 中心地のバグルン・バザールに行った時、日本の存在感が異様に強いことに驚いたという。 「歩いてたら突然『NISSAN MOMO』という食堂を見つけて、聞いてみると親戚が日産の工場で働いてたからって。食器屋に入ってみたら、『うちは日本に出稼ぎに行く人たちがカレー屋で使う食器を買ってくんだ』と言ってたり。すれ違いざまに『今日本のカレー屋で働いてるんだけど、休暇で帰ってきてるんだよ』と日本語で話してきたりとかで、びっくりしましたね」
バグルン

ネパールのバグルン ※提供写真

日本へ出稼ぎに行っていた人や、現在進行形で行っている人、または家族の誰かが行っているという人も。 カレー屋だけではなく自動車工場で働いていた、働いている人たちが多いのだという。そのなかでも印象に残っているのが突如話しかけてきた現地の子供たちだった。 「突然子供たちがぼくの目の前にやってきて、『アーユージャパニーズ?』と聞かれたんです。そうだよと答えると、『今、日本でお父さんとお母さんがカレー屋で働いてます。僕も将来は日本に行きたいです』と、綺麗な英語で言ってきました。でも正直この子たちが日本に来てどうなるのかな、はたして幸福なんだろうかっていうことを考えてしまい、すこし胸が苦しくなりましたね」
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ネパール人は人生をかけて日本にやってくる
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'93年生まれのフリーライター。社会問題からトレンド、体験取材まで幅広く書きます。アイドルオタクに詳しい。Twitter:@mochico1407

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カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」 カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」

いまや日本のいたるところで見かけるようになった、格安インドカレー店。そのほとんどがネパール人経営なのはなぜか?どの店もバターチキンカレー、ナン、タンドリーチキンといったメニューがコピペのように並ぶのはどうしてか?「インネパ」とも呼ばれるこれらの店は、どんな経緯で日本全国に増殖していったのか?その謎を追ううちに見えてきたのは……。

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