更新日:2024年07月03日 15:26
エンタメ

石橋静河の“濡れ場を運動に変換する”資質に驚き。出演作品を見た記者は「現代のロマンポルノ」だと思った

たらこ弁当が伏線に…

その夜、帰宅すると、部屋のドアに弁当がかかっている。中身は、空。平岡がたらこ弁当を食べたのだ。するとドアを何度もノックする音が。外から「次はあんたのたらこ入れてよ」と不気味に連呼する。ゾクッとどころか、ゾッとすり気持ち悪さ。でもまさか理紀が食べられなかったたらこの連想として、卵巣(たらこ)→卵子へ飛躍するとは思わなかった。 これが本作最大のテーマである卵子提供のライトモティーフとなるのだ。理紀が提供するのは、もちろん平岡ではなく、世界的バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とイラストレーターの草桶悠子(内田有紀)だが。第3回、プランテの青沼薫(朴璐美)を介してホテルで会食が行われ、初対面した理紀は、報酬1000万円と引き換えに卵子提供契約を結ぶ。その日分として5万円が入った封筒を渡された理紀が、その足で向かったのが(スターバックス的な)カフェ。 持ち帰りで季節限定のドリンクを注文する。手取り14万円のこれまでなら、コンビニのサンドイッチひとつ手が届かなかった。外に出た彼女がドリンク片手に、自撮りするとき、初めて明るい表情で微笑む。微笑みの連動として微細な偏差を表現する石橋静河があまりに素晴らしく、あまりに可愛らしい。おにぎりやたらこなどの食べ物が飲み物へ変わる流動感もいい。

身体の微動と心の激動

では、それがどこに流れるかと言うと、5万円を元手に理紀が次に利用するのは、女性用風俗なのだった。待ち合わせ場所にやって来たセラピスト・ダイキ(森崎ウィン)は、なかなかの好青年。すぐにホテルに移動したものの、風呂に入るのをためらい、たどたどしくしてしまう。施術時間がただ過ぎる。理紀が言い放ったのは、「嫌なことは絶対にしないって変ですね。女が身を売るときは命の危険もあるのに」。いきなり本質に迫る。ゾクッとズバッと。 でもやっぱり身体が動かない。しくしく泣き始めた理紀に沖縄出身のダイキが「煮いきらんに」と言う。北海道の北見から「変われると思ってた、あの町を出れば」と思って上京してきた理紀にとっては、救いの一言というか、同じ地方出身者のリアルな手触りが彼女の心を優しく開き、風呂に促す。入浴後、いよいよ施術が始まる。何とも言えないリラックスした状態。あっという間のアロマ体験だが、「セックスしてもらえませんか?」と聞く理紀に対してダイキは、「えっ?」と聞き返す。 その言葉を聞き入れたダイキは、時間外のサービスを施す。理紀は身も心も解放されていくのを静かに感じながら、彼の大きな背中を強く抱く。このベッド上にも微笑みが連動するように、彼女の身体は微動する。 翻って第5回。草桶夫妻との契約を履行する中、理紀は地元に一時帰る。黙って来てしまったことで、基からこっぴどいお叱りメールが届くが、何だかむしゃくしゃした理紀は、以前の職場の上司・日高(戸次重幸)の誘いを受けてホテルに行く。東京のど真ん中で施術を受けたホテルとはまるで違う。田舎の町外れにポツンと一軒。行為の内容も違う。海老反りの勢いで雄叫びをあげる日高に対して理紀は微動どころか、微動未満。ただ心の中で「あぁ、もう」を繰り返す。東京では身体が自然と気持ちよく微動したが、地元では心が激動する。
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“濡れ場を運動に変換する”資質
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コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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