更新日:2024年12月04日 15:49
ライフ

「般若心経の刺青」を入れた女性が歩んだ“過酷すぎる”人生「普通の生活に戻れないことはわかっている」

「生きたい」と思い、写経に打ち込むように

まごみさん

“生き残った”あとにたどり着いた境地は…

 だが、まごみさんは生き残った。 「当然、骨は複雑に折れていて、右半身には麻痺が残っていました。医師からは『もう動かなくなるかもしれない』なんて言われて。そのとき、『人生なんだったんだろう、私って“生ゴミ”みたいなもんだな』って思ったんです。それで、『まごみ』を名乗るようになりました」  生き残ったことによって、まごみさんの奥底からある思いが頭をもたげてきた。 「皮肉なもので、身体が思うように動かなくなって初めて『生きたい』と思ったんです。リハビリにも精を出しました。もっとも熱心に打ち込んだのは、写経です。般若心経を無心で紙に書きました。それだけで心が静まっていったんですが、そのうち、般若心経に書かれている内容を勉強したいと思って調べました。そこで得た価値観に魅せられて、より一層『生きよう』と思えました」

右腕に「般若心経の刺青」を入れ…

まごみさん

自身が命を絶とうとした経験を持っているからこそ、伝えられることがある

 そう言って見せたまごみさんの右腕には、般若心経が並んでいる。自殺未遂の直後に入れたというその刺青を愛おしそうに撫でながら、まごみさんは言った。 「人生に悩むことは誰にでもあると思います。でも、般若心経を学ぶと、あらゆる悩みの受け止め方を自分のなかに落とし込むことができます。どんなに深く傷を負ったとしてもいつかは立ち直れる日が来るんだと、そう思えるんです」  現在、Barの従業員として日々多くの悩める客と話すというまごみさん。自らの人生をオープンにすることで、さまざまな人にこんなエールを送っている。 「私みたいな“ド底辺”の生活をしてきた人間ですら、その気になったら働いて日本経済を回す一助を担えます。身体中に刺青を入れて、およそ社会人にはみえない身なりですが、ありがたいことに、誰かしらの役に立つことくらいは可能なんです。どれほど八方塞がりにみえても、必ず糸口はあります。死のうとした私が言うのも変ですが、誰であっても、自らの人生を閉じる選択肢をしないでほしいなとは感じます」
次のページ
「普通の生活に戻れない」ことはわかっている
1
2
3
4
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ