更新日:2024年10月30日 18:29
ライフ

「煙草は一日1.5箱」生活保護を受給する58歳男性漫画家が「後悔はない」と語る理由

煙草があるから外に出たいと思える

加藤伸吉さん

煙草はメビウスを愛飲。漫画家のメビウスにちなんで好んでいるとか 

 家賃はかからないため、生活保護費は食費や水道光熱費にあて、最低限の生活は取り戻した。いま一日をどんなふうに過ごしているのだろうか。 「一日、ほぼ散歩してます。朝10時に目がさめて、どこでタバコ吸おうかなって考える。俺、持論があって、煙草は健康にいいってこと。煙草があるから外に出たいと思えるし、ニコチンを全身に回らせると、脳が冴えた感じがするんだよな。煙草は一日1.5箱。お気に入りの場所とか、ここで吸ったことないなって場所を探して、お昼にスーパーで弁当を買って食べて、また午後に散歩して、夜用の弁当を探しに隣町まで行く。地元にも同じスーパーあるじゃんって思うんだけど(笑)。でも、ここで買ったっていうのがいいんだよね」   

鬱にならないための“秘策”は…

加藤伸吉さん

発表予定の読み切り漫画の原稿を持つ加藤さん

 そんな加藤さんの日頃の楽しみは「歩きながらぶつぶつ言うこと」だとか。 「わざと聞こえるように。馬鹿だ、変な人って思われても、それを覚悟でやってるよ。ペットショップの犬に話しかけたりね。これやっていると、人と話すきっかけになることもあるんだよ。しゃべるリズムつけてんの。話してないと気が落ちるし、鬱防止で」    人の目よりも自分のメンタルを気にかけるのは、40代の時に一度、鬱を患ったことがあるからだ。   「仕事を干されかけて、隔月の雑誌に30枚の原稿を描いてたとき。『惑星スタコラ』っていう複雑で重い内容の作品でさ。ここできめないと終わっちゃうぞ、負けちゃうぞって。俺はここにいるぞってねっちりした濃密な絵を描いてたら、鬱が始まっちゃった。5巻目とかスカスカで絵が描けなくなった。心理が出たね。漫画はドキュメンタリーですよ。  俺、ヒット作ないから。ずっと“知る人ぞ知る”って言われてきたよね。俺はサブカルにもなれなかった。ガロの根本(敬)さんみたいには、真似しようと思っても無理だったもん。  最高年収は400万円くらいかなー。生活保護になろうが、漫画家をやっててよかったよ。友達の漫画家が言ってたの。『俺たちって、ペンと紙で紙幣をつくってるんすよ。原稿って、ニセ札なんです』って。そうだよな、それってすごいことだよなって。自分で紙幣をつくれるんだから、あきらめちゃいけないよね。若い子にもどんどん漫画家になってほしいよ」    現在は、某大手漫画雑誌から、読み切り漫画の依頼がきているという。今年中に発表されれば、約9年ぶりの新作だ。人と話すのに飢えているのだろう。話は続き、時刻は23時半を過ぎていた。筆者は帰るタイミングをうかがっていたが……。   「俺、明日、誕生日なんだよ」  終電は諦めた。日付が変わる瞬間をカウントダウンして、拍手でささやかなお祝いをした。「58歳の抱負は?」と聞くと、加藤さんは煙草をプカプカふかせながら「健康!」と答えた。   <取材・文/ツマミ具依>
企画や体験レポートを好むフリーライター。週1で歌舞伎町のバーに在籍。Twitter:@tsumami_gui_
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ