スポーツ

広陵高校の部内暴力問題は“必然”だった…逆境を耐え抜くために繰り返されてきた「文化的ドーピング」という闇

一戦必勝の高校野球で求められる「逆境耐性」

’25年甲子園大会。旭川志峯に勝利し校歌斉唱を行う広陵(写真:産経新聞社)

今年の夏の甲子園では、広陵高校野球部の部内暴力が大きくクローズアップされた。大会開催直前の7月23日、すでに甲子園出場を決めていた広陵野球部内で、この1月に下級生が上級生から暴力を受けたとする告発がInstagramで行われ、広島県警に被害届を提出して受理されたことがXやThreads等のSNSで拡散された。広陵は8月7日に行われた1回戦に出場、旭川志峯に勝利したが、2回戦に進む前の8月10日に大会辞退を決定している。大会期間中の辞退は高校野球の歴史のなかでは異例のことである。 この一件で、SNSを中心に「体育会系」の部活動での暴力やハラスメント体質を批判する声が改めて盛り上がっている。一体なぜ、高校野球の中で暴力やハラスメントが生まれてしまうのか。本稿ではこれを制度や文化の観点から考えてみたい。 広陵の暴力事件と甲子園の辞退は、多くの人にとって衝撃的だったかもしれない。しかし、筆者に言わせればこれは高校野球という制度と文化が生み出す「必然」である。 現状の高校野球はトーナメント制が基本=負けたら終わりの一発勝負であるため、逆境を勝ち抜く精神力としての「逆境耐性」をつけることが、勝ち上がるための基本戦術である。その逆境耐性を鍛えるために、寮生活や練習などの日常をストレスで満たす――いわば「文化的ドーピング」が広く行われ、それが長年にわたる部活動の中の暴力やハラスメントを温存してきたのだ。 プロレベルで比較すると、野球というスポーツはサッカーやバスケットボールなどの他のチームスポーツに比べ、優勝チームの勝率が低いことが知られている。サッカーやバスケの優勝チームの勝率はおおむね7〜8割程度に収束するのに対し、野球は優勝チームでも勝率が5割後半〜6割前後である。統計的に「野球は番狂わせの多いゲーム」なのである。 実際、高校野球ではその日のコンディションなどによって結果が大きく左右されてしまう。そのため高校野球の現場では、強豪チームほど相手に先行されても試合途中で追い上げ逆転する精神力が必要だと考えられてきた。これが「逆境耐性」であり、そのため多くの強豪校で採用されてきたのが、「試合以外の日常すべてをストレスで満たす」という“隠れたカリキュラム”だった。“隠れたカリキュラム”とは教育学用語のひとつで、「公式なカリキュラムには明示されていないものの、生徒が学校生活を通して学ぶ行動様式や価値観などのこと」である。本稿の文脈に合わせると「指導者や上級生によって公式に教えられているわけではないが、部員が野球部生活を通じて学ぶ行動様式や価値観」ということになる。 例えば、高校野球において、かつてのPL学園野球部は甲子園のファンたちから「逆転のPL」などと称賛されてきた一方、寮生活や練習などで暴力やハラスメントが非常に多かったことで知られている (こう表現すると怒りを覚える関係者も多いかもしれないが、多くの証言や高野連自体の暴力事案の発表からもはや動かしがたい事実である)。
次のページ
高校野球文化を支えてきた武士道精神
1
2
3
編集者・ライター。1986年、神奈川県生まれ。一橋大学社会学部社会学科卒、同大学院社会学研究科修士課程中退。批評誌「PLANETS」編集部、株式会社LIG広報を経て独立。2025年3月に初の著書となる『文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する』(光文社新書)を刊行。現在は「Tarzan」などで身体・文化に関する取材を行いつつ、企業PRにも携わる。クラブチームExodus Baseball Club代表。
記事一覧へ
【関連キーワードから記事を探す】