雑学

平山夢明「昔から不意打ちに弱いんです」

― 週刊SPA!「平山夢明のどうかと思うが、ゾゾ怖い」 ―

 昔から<不意打ち>に弱いんです。喧嘩は勿論、口喧嘩ですら<不意打ち>は駄目。なんか捲し立てられると云いたいことの百分の一ぐらいしか出ない。「こ、このバクワァが!」ぐらい。家に帰った頃には腹が立って腹が立って、我慢できずに<きょええ!>なんて叫んで家人が仰天するといった日常風景ですが、みなさん、お元気ですか? 奇声を発してませんか? 平山です。

どうかと思うが、ゾゾ怖い! 今の世の中さまざまな<不意打ち>に溢れてますよね。いきなり突きつけられる<お配りティッシュ>もそうですが、なかにはいきなり殴りかかってきたりするのもいるので油断はできないわけですね。まあ、よく考えれば日々刻々とナイアガラのように送られてくる<情報>って奴自体が<不意打ち>ですからね。<これこれこういう情報が行きます!>なんて宣言したら情報じゃなくなっちゃう、史上空前の<不意打ち文化>のなかに生きているわけです。

 先日も書店でロマンスグレーの人品卑しからぬイギリス紳士のような老人が熱心に熱心にAKBのなかのひとりの水着写真が載っている雑誌を食い入るように見ていたんです。随分、熱心に見ているなあと思っていると、どんどんビキニ写真に顔を近づけぇ~顔を近づけぇ~で、いきなりぺろりと舐めたんです、写真を。<むほっ!>と思わず声が出てしまいましたが、紳士は本を戻すとスタスタと去って行きましたね。おいらは何か山道で妖怪と出会したような感じでドキドキしました。

 で、昔になりますけれどチビと横浜の野毛山動物園に行ったんですよ。で、ダチョウの卵に乗ってみたり、猿のウンコ投げをみたりして隣にある公園で座っていたんですよね。<こんにちわぁ>っていきなり声が掛かったんで、振り返ると若いネーちゃんがニコニコ立っているんです。<なに?>というと<いま、世界パワーの詰まったワインをお配りしています!>って、ちっちゃな盃みたいなのに入れた赤ワインを差し出してる。ふたりとも普通に可愛くてミニスカート以外に何か売りつけるものも持っていなさそうで、思わず受け取って<ああ、はい>なんて云いながら飲んじゃった。普通のワインでしたけれどね。で、彼女たちは<どうですか? パワーを感じて戴けましたか?>なんて云うんで<ああ、そうだねえ。なんとなく湧いたねえ>って答えると<ありがとうございました!>って去ったんです。あとから考えりゃナニ飲まされたのかわかったもんじゃないんですが、こういうのに弱いんです。その直後、オウムの話になって、麻原の小便だの痰だのをありがたがって信者は買って飲んでたなんて報道が出たんで、こっちは熱が出ましたけどね。

 また、ちょっと純粋な<不意打ち>じゃないんですけれど、思いがけないって感じじゃ似てる話で、知り合いが小さい頃、同じアパートに住んでいた老夫婦のところによく遊びに行ってたそうなんです。婆さんはガンかなんかでだいぶ具合が悪かったんですけれど、遊びに行くと孫が来たみたいに喜んでくれるんで、ちょくちょく出入りしてたんですね。ある日、じいさんがしきりにラーメンを取ってやるから一緒に喰おうと云いだしたそうで。それは嬉しい、と届いたラーメンを喰っていた。でも、婆さんはずっと隣の部屋でこっちに背を向けて寝ている。ラーメンも婆さんの分は来ない。話しかけても眠っているのか返事がない。

 翌日、学校から帰ると刑事が来て、昨日のじいさんと婆さんの様子を聞きにきたそうで。どうもじいさんが婆さんを毒殺して、自分も死んだらしいんですと。<死人の真横でラーメン喰ってたんだよ。旨かったけど>と云っていました。ほんと、ラーメンもどうかと思いますがゾゾ怖いモンです。

平山夢明【平山夢明】
ひらやまゆめあき●’61年、神奈川県生まれ。’10年刊行の長編『ダイナー』(ポプラ社)が、第13回大藪春彦賞を受賞。前連載をまとめた『どうかと思うが、面白い』も、清野とおる画伯との特別対談やアメリカ旅行記付きで、小社より絶賛発売中!
<イラスト/清野とおる 撮影/寺澤太郎>

どうかと思うが、面白い

ホラーだけど笑える不思議な話




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