更新日:2013年01月28日 21:14
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一体、多摩川の水面下では何が起きているのか?

一体、多摩川の水面下では何が起きているのか? 毎日数百万人の東京都民と神奈川県民がこの多摩川を渡って通勤通学しているにもかかわらず、その”水面下”に寄せられる関心は低い。 「人類終末までの時を刻んだ”核時計”に喩えれば、多摩川の時計はもう24時を回っています。観賞魚など外来熱帯魚の放流やブラックバスなどの特定外来種の爆発的な増加によって、多摩川の生物相は取り返しのつかないところまで破壊が進んでいるのです」  多摩川を見つめ続けて30年、川崎河川漁業協同組合の山崎充哲さん(52)は、なかば諦観の交じった口調でそう語る。 「多摩川は水量の7割を下水処理された排水に頼っています。家庭からの排水のほとんどはお湯ですから、川の水温が10年前と比べれば2~3度は上がっています。そのため、熱帯性の魚がすめるようになっており、家庭で飼えなくなって捨てられたアロワナやグッピー、ピラニアなどが、冬を越せてしまうんですよ」  しかし、冒頭で本誌釣りバカ記者たちは釣果ゼロという醜態を演じているが、多摩川の”外来魚汚染”はささやかれるほど深刻なのだろうか? アユが遡上する川が外来魚で”汚染”される  そんな記者の疑問を、山崎さんは言下に否定する。 「今月初めに行った漁獲調査では10分程度の刺し網漁で40cmクラスのコクチバス(ブラックバスの一種)が15kgも上がりました。立ち会った東京都と神奈川県水産課の職員も驚いていましたよ」 山崎さんの調査結果(写真下)を見れば、記者も唸らざるをえない。  また、9月下旬から10月上旬にかけて東京都島しょ農林水産総合センター振興企画室が行った潜水調査もこれを裏付けている。 「ブラックバスの中でも、以前問題視されていたオオクチバスは流れの速い河川環境には適さないらしく、流れの緩い下流部など、一部での分布に留まります。一方、上中流域や流れの速い環境にも適応したコクチバスが多摩川全域に広がっています」(同センター前田洋志研究員)  外来魚の認知状況について同センターの小泉正行研究員は、中流の調布取水堰での定置網調査で、’89年4月のカムルチーを皮切りに、’91年5月にオオクチバス、’96年5月にガーパイク、’04年4月にコクチバスとブルーギルを確認しているという。以来、外来魚は着々と増加しているとされるが、その中でブラックバスなどの特定外来種は圧倒的だ。 「ブラックバスは非常に貪欲で、アユやオイカワ、ワカサギ、ウナギ、エビなどを旺盛に食べて急繁殖します。それまで多摩川にいた在来の魚たちをあっという間に駆逐してしまうんです」(山崎さん)  実際に、山崎さんら漁協ではブラックバスを漁獲した際に胃の内容物を調査しており、多摩川のバスがアユを大量に食べていることを把握している(写真トレイ内)。今年の春先から夏にかけて、ほとんどのバスがアユを主食にしており、アユが遡上する魚道付近で待ち構え、着水したところを次々に食べる群れも目撃されている。しかも、水温上昇により、アユの産卵期が遅くなり、かつ遡上が早まる現象が起きているため通常より未熟で”食べごろ”の稚魚が大挙川へ帰ってくるのだ。 「この2年で、多摩川のバスは爆発的に増えています。5~6年前、上流域ではバスが放流され、今この集団は30~40cm程度に育っているはずです。成長するにつれ捕食されにくくなりますから、今後は増える一方。そのうえ、今年数十万匹いるバスの幼魚が、来年は遡上してくるアユを食べられるサイズに育ちますから、事態は緊急で深刻です」(同)  かつての”死の川”は、上下水道の整備により今や200万匹のアユが遡上する清流を取り戻した。しかし漁協や水利関係者の懸命な努力が、バスなど外来種への給餌に終わってしまったらなんともやるせない……。
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刺し網にかかったブラックバスを調べる川崎河川漁業協同組合の山崎充哲さん(右)。
捕獲されたバスの腹を捌くと、そこからは小さなアユが多数出てきた(トレイ内) 特定外来種とは? 人間によって移入された生物の中で、移入先の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かす恐れのあるものを侵略的外来種と呼び、とりわけ影響の大きな種については、外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)が指定する特定外来種として生体の輸入や運搬、養殖などを禁じている。魚類ではブラックバスやアメリカナマズやパイクなど13種が挙げられる。捕獲した後は処分が義務づけられており、違反者には3年以下の懲役、300万円の罰金が科される ― 南米化する東京 タマゾン川の怪魚を追え!【4】 ―
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