雑学

【日常に潜む恐怖】赤ん坊の指がOL風女子の鼻の穴に…

― 「平山夢明のどうかと思うが、ゾゾ怖い」 ―

 先日、スーパーでレジの順番を待っていますと前に並んでいた若いお母さんが抱っこしていた赤ん坊がしきりに、後ろにいたOL風を見て笑うので、彼女もお愛想笑いを返していたわけですね。赤ん坊が笑いかけているのに無視するのは人としてよくないことだみたいな空気がありまして、それにのっかった感じのお愛想返しではあったんですが。

 見ていると母親がOLに笑いかけている我が子に気づいたんですよ。そしたらたちまち「あらあら……よかったわねえ。きれいなお姉さんでぇ」なんて云って赤ん坊を更にOL風に近づけたんです。顔と顔がくっつきそうな距離まで。そしたら赤ん坊がキャハキャハ笑ってOL風の顔に指をサッと突き出したと思ったら鼻の穴に指がずぼっと入ったんですよ。

 OLはキャッと叫んで鼻を抜いたんですが、びろーんっと鼻水が赤ん坊の指とOLの鼻の間でしっかり糸を引いたんですよね。それも「え? そんな? そんな感じなの? 大人なのに?」っていう感じの一昔前の少年漫画にも出せるようなしっかりした立派な<王様級の>鼻水の糸だったんですよ。

 当然、OLのほうが手でくるくるって巻き取ったんですけれど、それをきっかけに今までのアットホーム的な流れが、信じられないほど気まずい感じになって、母親もちょっと顔色が青水色みたいな変な感じになって「すみません」ごにょごにょ、「大丈夫です。大丈夫です」ごにょごにょ的な終わりになったんですね。

 で、前の母親がレジを打ってもらっている最中に赤ん坊がまたOLに笑いかけたんです。そしたらかなり強張った顔のままOLが大人の余裕で再び笑顔で笑い返した途端、鼻からドロッと血が出たんです。たぶん、赤ん坊の細い指が思いも寄らぬ深さまで侵入し、その薄い爪が鼻の肉を抉ったんだと思うんです。

平山夢明 で、本人は全く気がつかずにっこり、ひと笑いして、また笑った途端、口に入った血が前歯をお歯黒ならぬお歯赤にしてしまったんですね。で、それを間近で見た赤ん坊が一瞬、軀をブルッと震わせた直後、<うっぎゃあ~!>って泣き出して。慌てるOL、慌てる母親、母親、OLを見る、お歯赤を見る、顔面蒼白! みたいな感じでしたけれども、みなさま、夏まっさかりの昨今、赤ん坊に鼻を抉られていますか? 平山です。

 と、このように世の中は税金や莫迦な政治家のように実に不意打ちに溢れているわけです。不意打ち的なものでよくあるのがテニスのコートの水はけに使われるTバーですね。先っちょがゴムだったり、櫛の歯みたいだったりと色々あるんですが中学の頃、先生の弁当箱をストーブでチンチンに熱してから、また先生の机の上に戻しておいたんですね。

 その時の担任はクラスで食べるのを日課にしていたので、うるさくて仕方がなかったんです。嫌いな奴の机に生の金玉をくっつけるという遊びが流行っていまして、たまたま玉を出していた玉手君という人がこっぴどく叱られたのでその仕返しでもあったのですが、とにかく担任は弁当の蓋を開けようとした途端、怪鳥のようなリー的な叫び声をあげて弁当をばらまき、笑っている俺たちを追いかけてきたわけです。

 当時は今と違って教師が生徒を殺しても罪にはなりませんでしたから、それは必死に逃げたわけです。が、やはり食い物の恨みは恐ろしく、もうあと一歩で捕まると思った途端、担任はあのTバーの櫛歯の部分をガンっと踏み付けました。もうそれはそれは漫画のように飛び上がった柄の部分が奴の金玉を場外ホームラン並みにクリーンヒット。おいらたちは殺されずに済んだ代わりに親に連絡されてタコ殴りということになったんですね。ほんと、Tバーも結構ですが、金玉もゾゾ怖いもんです。 <イラスト/清野とおる 撮影/寺澤太郎>

平山夢明【平山夢明】
ひらやまゆめあき●’61年、神奈川県生まれ。’10年刊行の長編『ダイナー』(ポプラ社)が、第13回大藪春彦賞を受賞。前連載をまとめた『どうかと思うが、面白い』も、清野とおる画伯との特別対談やアメリカ旅行記付きで、小社より絶賛発売中!

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