イケメン彼氏が夜中に見せる恐怖の一面
― 週刊SPA!「平山夢明のどうかと思うが、ゾゾ怖い」 ―
モデルみたいなイケメンと付き合うことができたと喜んでいた知り合いと町で偶然、出会ったので「うまくいってる?」と訊くと「別れちゃった」と云うのです。まだ2、3か月しか経っていないので驚いて訳を聞くと「夜中に『殺す』って云うの」と教えてくれました。なんでも夜中に苦しそうな声で目を覚ましたところ、彼がうなされていたんだそうです。起こしてみると、彼は汗びっしょりで「ありがとう。とても怖い夢を見た」と云い、また眠りました。
「で、わたしも寝ようとしたんだけど、そしたら今度は彼が笑うのね。ふふふ、うふふって。起きてるのかなと思って、『どうしたの?』って云うと」、彼が「殺してやる」って笑うんだそうです。とても面白そうに。びっくりした彼女が彼を見ると目を閉じている。
「寝ているのは確かだと思うのね。殺す、殺してやるっていう言葉以外は曖昧で、文章にもなってないの。初めは怖かったけど。それでもストレスか何かでそういうことになってるのかなと思って」好きだから我慢していたんだそうです。
そんなある日、何かの気配で目を覚ましたら目の前に横で寝ているはずの彼の顔があったんだそうです。「目は開いてるんだけど。わたしを見てるんじゃないのね。左右の目が全然、別のところを見てるの。普段は絶対にそんなことないのに」へたにイケメンなだけに端正な顔の目玉だけが外れたみたいで凄く怖くて。「もうアウト。限界だった。大人になって初めておねしょした」と云ってましたね。
別れを告げると彼のほうはなんとなく予想してたみたいで「またやっちゃった」って寂しそうな顔をしていて。訊けば昔、バイクの事故で後ろに乗せていた彼女を死なせてしまったらしいんですね。
で、それからたまにそういうことが起きると云われたそうです。
さて、殺人現場や墓場で遊んでいたりするとよく手に巻いた数珠って切れるじゃないですか? 知り合いで廃墟巡りとか大好きなのがひとりいるんですけれど、毎回、捨てるのももったいないと云うんですよ。あれも適当な石を繋げているようで結構な値段しますから。で、切れたのをそのまま拾って帰るのもなんなんで、事務用のショボイ封筒に入れて持ち帰り、なんとなく気になった他人の家の目に付かないところに埋めておくんだそうです。それでひと月ほど経ってから取り出すとなんとなく浄化されているような気がするんで、また糸を通すんだとか。
あるとき、やっぱり埋めた家の植え込みから袋をほじくり出していると、妙な視線を感じる。後ろを見るとクリーニング屋の親父が変な顔して睨んでる。「どうも」なんて頭を下げると、つかつかやってきて、「あんた、なに?」なんて詰問されちゃったから、適当に「いや、ここの家、新聞とってくれませんかね?」なんて誤魔化したら、「ここ、みんな先々週に死んじゃったよ。誰もいないよ」って。一家でドライブに行って交通事故に遭ったらしいんです。「さすがにその石はそのまま置いてきちゃったよ」なんて笑ってました。無邪気(?)な素人も罪深いですが、プロの霊能者にも相談者から引き受けた霊をコンビニやすれ違った人に憑けて祓うなんて適当なのもいますから気をつけたいものです。
別の知り合いでも廃墟を巡った後に墓場に行って肝試しやってたのがいるんですけどね。そろそろ帰ろうかって時に「なんだ。あんまり怖くなかったじゃん!」なんて強がりを云った瞬間にパーンッて音が響くほど景気よく自分で自分の頰を引っぱたいた娘がいましたよ。叩いた本人も呆気に取られて、もう完全に手が勝手に動いたとかでね。みんなでワーキャー騒ぎながら帰ってきたそうですけれど、ほんと、肝試しもどうかと思いますが、ゾゾ怖いもんです。
【平山夢明】
ひらやまゆめあき●’61年、神奈川県生まれ。’10年刊行の長編『ダイナー』(ポプラ社)が、第13回大藪春彦賞を受賞。前連載をまとめた『どうかと思うが、面白い』も、清野とおる画伯との特別対談やアメリカ旅行記付きで、小社より絶賛発売中!
<イラスト/清野とおる 撮影/寺澤太郎>
『どうかと思うが、面白い』 人気作家の身辺で起きた、爆笑ご近所譚 |
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ