【後編】プロ棋士が解説「第2回将棋電王戦」初戦で人間が勝てた理由
―[第2回将棋電王戦]―
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この「△6五桂」は、プロ的には「ひと目では無理攻め」とされる一手。普通なら攻めすぎて駒が足りなくなり、カウンターを食らって後手が負けるパターンだという。控え室にあらわれた、阿部健治郎五段、中村太地六段、第4局で副将を務める塚田泰明九段らも、プロ棋士側が優勢という見方で一致していた。
「きのうの練習対局でも、まさにこういう風に桂を跳ねてきましたね」(佐藤慎一四段)
この『第2回 将棋電王戦』で次鋒を務める佐藤慎一四段も、このように証言していた。ただし、相手はミスが極端に少ないコンピュータ。人間的には無理攻めでも、油断はできないところ。ニコニコ生放送で常時表示されていた「ボンクラーズ」(※)の評価関数の数値も、まだ後手の有利を示している。少なくともコンピュータは、この桂跳ねを無理だとは考えていないようだった。
※ 第1回将棋電王戦で勝利した将棋ソフト。控え室に姿をあらわした開発者の伊藤英紀氏によれば、この日のニコニコ生放送で使用された「ボンクラーズ」は、米長邦雄永世棋聖に勝った古いバージョンではなく、ほぼ最新版の「Puella α」(『第2回 将棋電王戦』第4局に登場予定)と同じバージョンと言ってよいものだったという。
しかし、プロの直観とコンピュータが出力する数値に食い違いが見られたこの一手が、結果的には決定的な一手となった。このあとの控え室やニコニコ生放送で、プロ棋士が予想した展開が外れることは、ほとんどなかったのである。その一方で、「ボンクラーズ」の評価関数の数値が先手有利を示し始めたのは、34手目の△6五桂から、およそ30手もあとのことだった。
この間の阿部光瑠四段の指し回しは完璧なものだった。花粉症で鼻を真っ赤にしながらも、盤面では「習甦」の攻撃を余裕を持ってかわしつつ、プロらしく手堅く、冷静に有利を積み重ねていく。さらにはコンピュータ将棋ソフトでまれに見られる、少しでも自分が悪くなる局面を先延ばしにしようとする意味のない手(72手目の△4一金)まで飛び出し、大勢は決した。
「人間はよくやりますが、形勢が不利になったとき、その局面の最善手ではないけど悩ましいという『勝負手』を、コンピュータが指すことは難しいんです。そういうアルゴリズムを入れてみたり、いろんな実験は行われていますが、かえって勝率が下がってしまったり」(「GPS将棋」開発者・東京大学准教授 金子知適氏)
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