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リストラはアベノミクスの副作用

アベノミクス,リストラ

夏の参議院選挙後には、再び解雇規制の緩和が検討される可能性が高い

 株価の上昇こそ落ち着いたものの、日経平均が8000円台に低迷していた一年前を思えば、大きく持ち返した日本経済。しかし、減らないどころか、ここ数か月、むしろ増えたのがリストラに関するニュースだ。

 円安の効果も相まって、業績回復を果たした企業が少なくないにもかかわらず、人員削減が減らないのはなぜなのか。その理由を投資会社や経営コンサルティング会社などで企業再生、企業変革に取り組んできた経営コンサルタントの中沢光昭氏は「好景気で資金的に余裕ができた優良企業が、最初に着手することこそが実はリストラなのです」と語る。

「社員に支払うお金がなくなったからリストラをすると思っている方が多いのですが、給与支払い能力がなくなるところまで現金を使いきってしまったら、リストラどころではなく破産になります。実はリストラというのは、企業のカネに多少の余裕があるときにするものです。リストラのプロの視点から見ると、株価は上がったものの先行き不透明な現在は、大胆な人員削減を断行する可能性がかなり高い状況であるといえます」

 さらにそんな民間企業の思惑を政治は後押ししようする。

「安倍政権が設置した産業競争力会議においては、雇用制度の見直しが議論され、雇用制度改革の骨格が決まりました。視点は人材の流動性を高めることで、成熟産業から成長産業への人材の移動を促すことが中心になっています。具体的には、転職を支援する企業への助成金の設置や、現在の正社員と非正社員の中間に位置するような雇用形態の検討となっています。そして、これらの結論に至るまでに注目されたのは、解雇要件の緩和でした。労働組合団体からの反発や、選挙を気にした政治家の動きもあったのかもしれませんが、数か月の議論を経て、最終的には骨子には組み込まれませんでした。ただし、企業・経営者の大半は『今の解雇要件は緩和されたほうが望ましいですか?』という質問に対してイエスと答える状況ですので、今後、またいつ議論が再燃するかはわかりません。そして少なくともそうした正社員の処遇について国政レベルで話題になっていること自体が、リストラを望む企業にとっては、感情的なハードルを引き下げることは間違いありません」

 要するに企業の論理は、「好景気=雇用安定」とは程遠いということだ。

「むしろ現金の獲得や業績回復の見込みができたために、これまで処理したくても処理できなかったリストラに着手するのです。アベノミクスが企業にもたらした最大の恩恵は、大規模なリストラのチャンスを与えたことともいえます。『業績が悪い? 仕方がない、うちもそろそろ早期退職をやるか』と思いついても、実はリストラには多額の現金が必要とわかり、その後何年も先延ばしして耐え忍んできた企業が多いなかで、安倍政権誕生によるアベノミクス効果で景気に上昇感が出てきました。円安で数百億円を手にしたメーカーも少なくありません。期せずして手にした現金を退職割増金に回すことで、大胆なリストラを実行できる状況になりました。これが現在です。例えていえば、それまでずっと体調が悪かったけれど、あまりに貧しくて病院に行くお金もなく、ひたすら辛抱していたところに、思いがけず臨時収入が入った。ようやくいい病院に行って患部を手術したり、薬を服用したりするなど体を治し、体力をつけて次の病気に備えようというチャンスが巡ってきたのです」

 アベノミクスによる好況感はすでに一服したものの、再び株価上昇&円安へとシフトすると可能性は決して低くはない。好景気こそが、自分の雇用を奪う日もそう遠くないかもしれない。 <取材・文/日刊SPA!取材班>

【中沢光昭氏】
経営コンサルタント。投資会社、経営コンサルティング会社などにおいて企業再生、成長を見据えた企業変革に約20年従事したあと、独立。現在も企業再生をメインに活動を行う。これまでに30社以上、計2000人以上のリストラに直接関わってきた。著書『好景気だからあなたはクビになる!』が好評発売中

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