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厚労省が「ひきこもりサポーター」派遣。“救う”ことの難しさとは?

ひきこもり, 子育て, 学校

厚生労働省「ひきこもり関連施策」より

 厚生労働省が先日、引きこもりの人や家族を支援する「ひきこもりサポーター」を育成し、派遣する事業を発表した。社会福祉士など専門の相談委員の家庭訪問に加えて、ひきこもり経験者やその家族などをサポーターとして派遣し、学校や職場への復帰を後押しするとのことだ。

 ついに国が動き始めたひきこもりの社会復帰支援。果たして、その難しさとはいったいどのようなところにあるのだろうか?

 厚生労働省の取り組み以前から、ひきこもりや不登校家庭への訪問サポートを行っているNPO法人不登校情報センター理事・訪問サポートトカネット代表、藤原宏美氏に話を聞いた。

「まず、ひきこもりの対応で大切なのは『何をもってゴールと考えるか』です。もちろん、学校や仕事などに復帰することが何よりだという考えもありますが、『ひきこもり』という問題はそう簡単ではありません。学校や働く以前に、他人と話すことやコミュニケーションを取ることすら出来ない人たちもいます。そんな人たちがいきなり『学校復帰、職場復帰』などと言われても、途方に暮れてしまうと思います」

 そのため、トカネットではまず「安心できる友達体験」を提供することを考えているという。

「現在、下は小学生の不登校から、上は、40代のひきこもりの方をサポートしております。10代の不登校の子供のところには大学生が、20歳以上のひきこもりの人のところには社会人サポーターが家庭に訪問してメンタルフレンド活動をしています。今の状態を受け入れてくれる比較的年齢の近い人と関わることで、安心できる友達体験・同世代体験をすることが目的です。具体的には、話したり遊んだり、一緒に外出したりしています。通常は10代前半くらいまでの友達体験で、十分に社会で生きていく基礎の力が身につくといわれます。メンタルフレンド活動はその役割です。メンタルフレンドとの関わりで人への安心感や、この自分でいいんだという自己肯定感、そして、物事に対応していく力を培っていきます」

 この「メンタルフレンド」、実際にどのように接しているのだろうか?

「メンタルフレンドになる人には、不登校やひきこもりの経験者もいます。あくまでも友達のように上下関係は作らず、楽しい時間を過ごすことに徹していると、いつのまにか外の世界に興味が移行していくことが多いです。以前、ある心理学の専門家の方に『心理学などの勉強をしていない素人がメンタルフレンドになってかかわるのは危険だ』と言われたことがありましたが、私たちの考え方はちがいます。ひきこもっている人たちに必要なのは、同世代の人との間で日常の体験を増やすことだと思います。生きる力は、マニュアルや訓練では身につかないと思うのです。毎回、訪問を終えたメンタルフレンドたちから、報告レポートを貰い、勉強会をして、情報を共有し、その子にはどのようなテーマを設定しどんなコミュニケーションが必要なのか考えてサポートをしていきます」

 また、ひきこもり当事者とだけでなく、「メンタルフレンドとひきこもり当事者の家族」との関係性もまた、各家庭に訪問した際に特に注意が必要だと言う。

「ご家族から子供に、『学校に行くように』とか『外に出てほしい』と伝えてほしいという要望を受けることがたまにあります。そうなるとメンタルフレンドが親の要望を子供に伝える、たんなる代弁者と思われてしまいます。そうなると子供からの信頼も得られず、本来の役割を果たせなくなります。そこで、家族サポートという制度をつくりました。両親からの要望や相談は、家族サポート担当のカウンセラーが聞きます。ご家族にサポートの報告を伝えて、今後のサポートのテーマをご一緒に考えながらご家族とメンタルフレンドをつなぎます」

 訪問サポートのむずかしさを語る藤原氏も日々、迷いながら当事者たちと向き合い活動に取り組んでいるという。そんな立場から国が行う今回の施策についての思いを聞いてみた。

「今までも国はひきこもりの就労支援などの取り組みをしてきました。ただ、なかなか国が考える成果がでないことから、今回は、ひきこもりのコミュニケーションという本質的な部分に目をむけたことは、私たちのように長年現場で等身大のひきこもりと向き合い、その現状を見てきた民間団体に近づいてくれたようで、個人的には喜んでおります。ただ、まず初めに何よりも理解を共有して欲しいのは、ただ単に学校へ行くこと、職場へ行くことを『ゴール』にしてしまうのには無理があるということです。メンタルフレンド活動により他者とかかわることで、本人がまず、『自分』を知ること。次にその等身大の自分を肯定していくこと。そして、その自分を壊さないで、できる形の学び方、働き方、生き方を見つけていくことがこの問題の『ゴール』だと考えます」

 一筋縄ではいかない、不登校・ひきこもり問題。国もそれぞれの当事者に即した臨機応変な対応が求められている。 <取材・文/トモMC>

●厚生労働省「ひきこもり関連施策」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/dl/hikikomori01.pdf


【藤原宏美氏】
関西大学経済学部卒業後、民間企業・法律事務所相談員を経て、不登校・ひきこもりの子供を対象に1998年メンタルフレンドによる訪問サポート活動をする「トカネット」を立ち上げる。翌年、NPO法人不登校情報センター理事に就任、同センター訪問支援部門「トカネット」代表として活動中。http://www.futoko.info/tokanet/index.htm





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