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プロ棋士とコンピュータが組むとどうなった?【電王戦タッグマッチ観戦記】

 8月31日、東京・六本木のニコファーレにて、プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが協力して将棋の対局を行う『電王戦タッグマッチ』が行われ、ニコニコ生放送にて生中継された。
電王戦タッグマッチ

対局開始前に、出場するプロ棋士と各ソフトの操作を担当する開発者が全員登場。抽選とルールの説明が行われた

 この『電王戦タッグマッチ』は、来春開催予定の『第3回 将棋電王戦』のプレイベントという位置づけで、『第2回 将棋電王戦』で激闘を演じた人間とコンピュータが「仲直り」してタッグを組み、トーナメント形式で優勝を争うというもの。出場タッグは以下の5組だ。 ・三浦弘行九段 & GPS将棋 ・塚田泰明九段 & Puella α ・船江恒平五段 & ツツカナ ・佐藤慎一四段 & ponanza ・阿部光瑠四段 & 習甦  トーナメントの組み合わせ、および先手・後手は当日の抽選で決定され、全4局が行われた。将棋と似たルールを持つチェスの世界では、人間同士がコンピュータで指し手を調べながら指す「アドバンスドチェス」という競技が存在するが、プロ棋士が参加する「アドバンスド将棋」は、ほぼこれが初めてと言ってよい。いったいどんな将棋になるのか、将棋ファンならずとも注目のイベントであった。
電王戦タッグマッチ

抽選のためのボールが入った箱を、なんと森内俊之名人が持つことに。ニコ生では「名人の無駄遣い」というコメントが乱舞

⇒第3回電王戦開催へ 羽生三冠と肩を並べるトップ棋士・屋敷九段が出場決定 https://nikkan-spa.jp/496100 ◆第1局:▲佐藤四段&ponanza – △阿部四段&習甦  第1局は『第2回 将棋電王戦』の先鋒と次鋒の対局。先手になった佐藤四段&ponanzaタッグが「矢倉(森下システム)」の将棋に誘導する形に。今回の持ち時間は、それぞれ1時間ずつの早指し。しかも時間がなくなると即負けという「切れ負け」ルール(決勝のみ持ち時間を使い切ると1手30秒)。したがって、中盤や終盤の難所に時間を残すためか、序盤はほぼ人間主導でサクサクと進んでいく。
電王戦タッグマッチ

対局者にはお互いのコンピュータの評価値が丸見えで、すぐ下で森内名人が解説している声も聞こえる

 先に戦いを仕掛けたのは佐藤四段&ponanzaタッグ。矢倉に囲った王様の頭から、相手の攻め駒である飛車を逆襲するようなイメージだ。しかし、コンピュータのponanzaも習甦もどちらも後手が良いと判断しており、どうもうまくいっているようには見えない。実は佐藤四段は、少々悪いという程度なら自分の考えを優先する方針で望んでいたようだ。 「100点とか200点とか、そのくらいの差なんでいいですよと(開発者の山本一成氏に)言ってもらっていたので。あまりいい仕掛けじゃなかったみたいですが」(佐藤四段)  中盤は後手の猛攻を先手がしのぐという展開になった。微差とはいえ優勢を意識してか、阿部四段は習甦が推薦する手をほぼそのまま採用し、どんどん指し進めていく。ところが終盤に入ったところで、形勢はみるみる逆転。後手の攻めは不発に終わり、あっという間に先手勝勢となった。 「自分で指すか習甦に任せるか迷うところがあって。結構任せっきりにしちゃったんですが、そこでは自分の手を指したほうが良かったかなと」(阿部四段)  プロレベルの早指しでは、具体的に何が悪かったのかハッキリしないようなちょっとしたことで、いきなり大きな差が生まれてしまうことがある。本局は、中盤の選択肢が多い難しい局面で、どのようにコンピュータを使うかが大きなカギとなった。結果的には、自分の手を優先した佐藤四段がうまくいった形だ。  さらに今回の『電王戦タッグマッチ』では、短い時間でも終盤にミスがほとんど出ないコンピュータの助けも借りることができる。大きな差が一度ついてしまうと、逆転は極めて難しい。 「ついに先手が1000点超えましたね。ひとりで指してると失敗しないかなと思ったりしますけど、コンピュータが後押ししてくれるので心強いですね」(森内俊之名人)
電王戦タッグマッチ

156手目の局面図(「日本将棋連盟モバイル」より)。どうしてこうなった……

 あとは先手が決めるだけ……かと思いきや、この将棋は、ここから思いがけない展開を見せる。どちらも残り時間が少なくなってリスクの少ない手を優先した結果、なんと双方の王様が相手陣地内に入り、ほぼ詰まなくなる「相入玉」に。こうなると「切れ負け」ルールのため、先に時間がなくなったほうが負けになってしまう。  残り時間は先手1分35秒、後手35秒。どちらもとにかく1秒もしないうちに指すという超早指しで、藤田綾女流初段の読み上げも追いつかない。もはやコンピュータは関係なく「俺の知ってる将棋と違う」展開にどうしていいかわからず、会場からは笑いも漏れる。  おそらく阿部四段は時間に追われて投了するタイミングを逸してしまったのだろう。「切れ負け」ルールの将棋では「たまによくある」が、プロの公式対局では「切れ負け」ルール自体がほとんどないので、かなり珍しい光景だ。
電王戦タッグマッチ

コンピュータの評価値的には勝負は決しているのだが……森内名人と聞き手の矢内理絵子女流四段も苦笑い

 とはいえ、形勢的にも残り時間的にも後手の勝ちはない。残り時間8秒になったところで、阿部四段が投了。第1局は185手で佐藤四段&ponanzaタッグの勝ちとなった。『第2回 将棋電王戦』でコンピュータに対し唯一の勝ち星をあげた阿部四段が負けたというのは波乱……とまでは言えないが、いろいろな意味で初戦から予想外の将棋だった。 ⇒つづきを読む(https://nikkan-spa.jp/505148) ⇒【観戦記2】三浦九段「GPS将棋が指せって言うからさ」 https://nikkan-spa.jp/505148 ⇒【観戦記3】佐藤四段「ディープインパクトに乗った武豊さんの気持ち」 https://nikkan-spa.jp/505149 ⇒【観戦記4】人間とコンピュータの未来を考えさせられた一日 https://nikkan-spa.jp/505150 ◆電王戦タッグマッチ|ニコニコ動画 http://ex.nicovideo.jp/denou/tag/ ◆日本将棋連盟モバイル http://www.shogi.or.jp/mobile/ <取材・文・撮影/坂本寛>
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