開幕マイナースタートの松坂は、なぜメジャー組から外れたのか?
メジャー8年目の今季、完全復活を目指す松坂大輔投手にとって開幕マイナースタートの決定は、厳しい現実を突きつけられた瞬間だったに違いない。決定を伝えられた松坂本人も「ショックです」と口にしたほど、それは予想外の展開だった。
メッツとマイナー契約を結び先発5番手の枠をかけてキャンプに参加した松坂は、キャンプイン当初から5番手の最有力候補に挙げられていた。
メッツのテリー・コリンズ監督(元オリックス監督)も「先発5番手にはベテランを起用したい」と何度も発言していたし、現地ニューヨークのメディアでも「5番手の枠を獲得するのも失うのも松坂次第」と伝えられ、つまりオープン戦で好投を続けさえすれば、開幕メジャーで先発ローテの5番手に入るのはまず間違いないという空気があったのだ。
そのオープン戦で、松坂は6試合に登板し1勝1敗、防御率3.04をマーク。最初の頃の登板では不安定な面もあったが、5度目の登板では7回途中まで投げ3安打4四球1失点で5奪三振を記録、6度目の登板では5回を5安打無四球、無失点で8奪三振と、文句のつけようがない内容だった。
それなのになぜ、松坂はマイナーで開幕を迎えることになったのか。
それはひとえに、メッツの球団側の事情に尽きる。
松坂がキャンプの最後まで先発ローテ枠を争ったのは24歳の右腕ジェンリー・メヒアで、まだ若く経験不足とはいえ期待の実力派若手として評価が高い投手だった。そのメヒアもオープン戦で4試合に登板し、0勝1敗ながらもトータル13回1/3で13奪三振をマークし、防御率2.70と好投。先発ローテ争いで、松坂と互角に渡り合っていた。
だがメヒアは状況的に、開幕から先発ローテに入る可能性が低いと指摘されていた。
まだ若いにもかかわらず故障が多くこれまで年間110イニング以上を投げたことがないため、今季も1年を通して先発ローテを守ることはまず無理というのがひとつ。
また、メヒアが今季開幕からメジャーの25人枠に登録されると、メジャーリーグの労使協定ルールにより今季終了後には通常より1年早く高年俸を払わなければならなくなるかもしれないという経営面での細かい事情もあり、球団はメヒアをまずマイナーに置いて様子を見るのではないかと考えられていた。
それがなぜ方針転換となったのか。恐らく、メヒアがオープン戦での投球で評価を急激に高めたことと、メジャーにいつでも昇格が可能な40人枠にすでに登録されていることが大きいのだろう。
一方の松坂はメジャー40人枠には入っていないため、メジャーの出場選手登録をするにはメッツの40人枠が現在いっぱいであるため誰かを外して枠を空けなければならなくなり、球団にとっては難しい選択となる。
だがそれなら、松坂に他の選択肢も選べる状況を用意することが松坂本人のためにはよかったはずだ。メジャーでは6年以上プレーした選手がマイナー契約でキャンプに参加した場合、今年でいえば3月25日までに球団がメジャーの出場登録枠に加えるかどうかを本人に通達しなければならないというルールがある。もし球団がその選手を開幕でメジャーの25人枠に入れないと決めた場合は、その選手を自由契約にするか10万ドルの保有権料を支払い傘下のマイナーにキープするという2択から選ばなければならない。
このようなケースでは多くの場合、球団がベテラン選手の意思を尊重して結論を出すことが多い。とにかくメジャーでプレーしたいと望むベテラン選手なら、そのチームでメジャーに昇格できる可能性が低いなら自由契約にしてもらい、チャンスの大きい球団に移籍した方がいいと考えるのが普通だろう。松坂もオープン戦最後の2試合で、開幕からメジャーのローテに入ることができるというアピールを十分にできていた。
だがこのとき、メッツは意図的に結論を下すことを避けた。松坂とメヒアのどちらを先発5番手にするか、2人にもう一度ずつオープン戦で登板させてから決定すると、結論を先送りにしたのだ。松坂に開幕メジャー入りを伝える期限にメジャー入りを伝えなかったため、球団は松坂の保有権を維持するため松坂に10万ドルを支払った。つまり開幕メジャーの確約をせずに傘下のマイナーで松坂をキープし続けられるようにしたわけだが、松坂本人も結果さえ出せば開幕からメジャーに上がれると信じていたはずで、開幕直前の土壇場で自分ではなくメヒアが先発5番手に抜擢されたと聞かされたときは青天の霹靂だっただろう。
※【後編】「マイナースタートの松坂、メジャー昇格があるとすればいつ?」はこちら⇒https://nikkan-spa.jp/617241
<取材・文/水次祥子>
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