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「社会」と「世間」――コミュニケイションの使い分け方

週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

 ちょっと前『コミュニケイションのレッスン』(大和書房)という本を出しました。んで、新入生や新入社員の春だというので、講演会&サイン会というのもやってきました。

コミュニケーション(イメージ写真) 自分でいうのもなんですが、この本は、二つの点で画期的なコミュニケイションのレッスン本です。

 ひとつは、日本人のコミュニケイションを「社会」向けと「世間」向けにはっきりと分けたことです。

 この欄で何度も「社会」と「世間」の違いについて書いていますが、ざっくりいえば、「世間」はあなたと関係がある人達。「社会」は、あなたと関係のない人達のことです。

 日本では、コミュニケイションと言っても、この二つの人達に向けては、まったく違うアプローチをする必要があるのです。

「世間」向けのコミュニケイションが上手い人は、「腹芸ができる」とか「根回しが上手」とか言われます。「社会」向けのコミュニケイションが上手い人は、「どんな人とも会話ができる」とか「外国人と渡り合える」なんて言われます。

 この本は、僕が上げた「世間」の5つの特徴にそって、「世間」向けのコミュニケイションを上達する方法を書いています。「世間」は、もともと、アジア的な農村共同体から生まれたものです。つまりは、生まれて死ぬまで、その集団から抜け出すことはできないということが前提です。そういう集団では、誰かが大勝ちとか大負けとかしてしまうと、集団の維持ができません。つまりは、つねにお互いが痛み分けをしながら、集団を維持していくことがコミュニケイションの目的となるのです。

 が、欧米型の狩猟民族は、そこが嫌なら飛び出すことができます。そして、初めて出会う人達と会話する必要があるのです。そこでは、大勝ちも大負けもあるのです。

 この本では、もちろん、欧米型の「社会」のコミュニケイションの方法も書いています。大切なことは、日本には、二つのタイプのコミュニケイションがあり、場合によって使い分けることが求められているんだ、ということです。

◆「社会」に住む人へ4ステップの交渉術

 もうひとつのこの本の目玉は、「交渉する」というテクニックを4つに分けて紹介したことです。

 僕は先日、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を見に行きました。隣に三十代のカップルが座っていたのですが、女性が映画の途中で何度もスマホを見ました。最初は時間をチェックしていたようですが、五回目ぐらいから、とうとう、スマホの写真をじっと見始めました。

 相手は「社会」に住む人です。僕となんの関係もないですからね。

「社会」に向けたコミュニケイションの始まりです。

 ここでまず、一番やってはいけないのは「(スマホを)しまって下さい」とか「そんなことやめて下さい」という言葉です。「しまって下さい」は、いきなりの命令です。それは「世間」では成立する言葉ですが「社会」では成立しません。

 こういう時は、まず、「1・相手のしたことを具体的に説明する」。僕は横の女性に向けて「あの、隣でスマホを見られると」と言いました。

 次が「2・その結果、あなたにどんな影響があったか、具体的に説明する」。僕は、「まぶしくて、画面が見にくいんです」と伝えました。

 ここで、その女性は、ハッとしてスマホをしまってくれました。もし、ここでもしまわなければ、「3・現在の自分の感情を冷静に伝える」。冷静が大切です。「見にくくて、とても困っています」と、僕は伝えたでしょう。そして、「4・冷静に自分の希望を語る」。「すみませんが、上映中にスマホを見るのをやめていただけませんか」と伝えます。

「社会」に対する「交渉」はこの4つのステップが基本です。遅刻ばっかりする人に対して、「もう許さん!」とか「クビだあ!」とか、いきなり自分の感情や命令を伝えるのではなく、まず、具体的に相手に自分が何をしたかを伝えることが大切なのです。「また遅刻した!」ではなく「今日は15分遅れましたね。三日前は10分遅れました」と言うのです。そこから、やっと「交渉」が始まるのです。

 そして、自分にどんな影響があったかを具体的に語り、そして、自分の感情を冷静に語るのです。難しそうですが、結果的にはこうした方が事態は簡単に進むのです。

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