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“パンクの生きる伝説”横山健インタビュー。生き様を刻んだドキュメントDVD発売の胸中とは

 KEN BANDのボーカル&ギター、Hi‐STANDARDのメンバー、インディーズレーベル「ピザ・オブ・デス」の社長、そして2児の父親……。いまやパンクロック界の“生きる伝説”とすら言われる横山健には、さまざまな顔がある。
横山健

横山 健

 そんな彼の活動や、これまでの半生などありのままの姿を収めたドキュメント・フィルム「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が、このほど発売された。  もともと昨年に映画として上映された同作品は、2週間の限定上映にもかかわらず約3万人を動員して大きな話題となった。加えて、今年5月には初の著書『横山健 随感随筆編』(育鵬社)を上梓するなど、横山健はここ最近、本業の音楽以外での発信も旺盛に行っている。そこにはどのような心理があるのか……。その胸中を語ってもらった。 ――そもそも、どういったきっかけでドキュメンタリー作品を撮ることになったのですか? 横山:今作の監督のMINORxU君が、僕の友達のバンドのPVを撮ってユーチューブに上げていたのですが、それを見て、「この人に僕のことを追っかけてもらえないかな」と思ったのが始まりですね。それで僕から彼に依頼し、’09年の暮れ頃にKEN BANDの『Four』というアルバムのレコーディング風景から、撮影が始まりました。インタビューなども交えて、一応はそこを終着点として考えていたので、「さぁDVDとして世に出そう」と思っていたら、東日本大震災が起きたんです。で、その頃にはMINORxU君とも、クライアントと監督というよりはもはや仲間になっていたんで、「これはもうちょっと撮る必要があるよね」と、お互いに思った。それで撮影を続行し、今のような形になったわけです。 ――もともとDVD化だけだった話が映画になったのはどういった経緯で? 横山:それはピザ・オブ・デスが持ってきてくれた話ですね(笑)。ただ、監督も映画化にはすごく興味があったし、僕も映画館でやってくれたら願ったりかなったりだと思ったので、DVDよりも先に劇場公開という形になりました。そしたら60劇場で約3万人も集まってくれて……すごく嬉しかったんですよ。なので、「もうDVDで発売することないじゃん」とも思ったんですけど、紆余曲折があり、少し時間をあけた今、ようやくリリースに至ったと。 ――DVDは’11年に行われた「AIR JAM ’11」のシーンから始まります。終演後の舞台裏で横山さんが「Ken Bandを必死こいてやっていたこの7、8年は、なんだったんだろう。全部だいなしにしちゃった気持ち」と話していて、盛り上がったライブとの対比がすごく衝撃的でした。あのシーンは意図的に最初に持ってきたんですか?
横山 健

監督はツアーにもスタッフとして帯同していたという

横山:いや、あれは監督があそこを最初にしてくれたんです。むしろ僕はあのとき、撮られていたことも知らなかった。足かけ5年間も監督と一緒にいたんですが、彼は体の一部みたいにいつもカメラを持っているんですよ。で、僕が「ここは撮っているな」と思ったときは全然撮っていなくて、逆に「今は撮ってないだろ」と思っているときばかり撮っているんです。もう、ほぼ隠し撮り(笑)。撮り始めた’09年の頃は撮っているのに気づいていたんですけど、その後はいつもカメラを持って座っているんで、いつ撮られているのか全然わからないんですよ。本人は「撮影は化かし合いだ」と言っていましたけど(笑)。 ――じゃあ、横山さん的には「ここは見せない」と思ったような部分も、作品のなかに含まれていると? 横山:そう。一応、編集作業のときにはチェックしていますけど、最初のシーンなんかは自分が監督するんだったら刺激的すぎて使わないと思うんですよ。でも、僕だけの作品ではなく監督の物でもあるし、彼が「これがスタートとして相応しい」と思うんだったらそれは使ってもらおうと。僕も自分が実際に言ったことですから。でも今、映画公開から一年たって、よくぞ撮ってくれていたなと思いますよ。あれはライブの後、舞台裏に行ってどうしようもない気分でタバコを一服して友達(監督)にグチを言っているシーンなんです。それに彼はフンフン頷きながら、膝にカメラを置いて回していた。映画全体にそんな感じのシーンばかりなんですよ。僕がカメラが回っていると思って、あえて“いいコメント”を言っでも、それは一言も使われていない(笑)。移動中もずっと一緒で、何千時間と一緒にいたので、もう感覚が麻痺しましたよ、本当に。 ――前半のインタビューシーンでは辛い幼少体験など、自身の半生を赤裸々に振り返っています。あの構成は横山さんからの提案だったんですか? 横山:いや、監督からですね。 ――自分の辛い体験などを話すことに、抵抗はなかったんですか? 横山:特にありませんでしたよ。僕も海外のアーティストのドキュメントを見るのが好きなんですが、そういうのが入っていると理解度が深まるし、単純にファン心理として嬉しいですからね。単純にそういったものを作りたかったという気持ちはあります。例えば、10年後に横山健やハイ・スタンダードを知った子が「どんな人なのか見てみよう」と思ったときに、ちゃんと説明してくれているものを作りたかった気持ちもありましたし。 ――完成した作品を改めて見た後に、心境の変化はありましたか? 横山:特別なものはないんですけれど、監督がすごく芯のある人間として描いてくれたので、「俺って信念のある人間なんだな」って、自分でも思うようになりました(笑)。でも、客観的に考えられるようにあったのはわりと最近の話で、上映直後なんかは、もう恥ずかしさばかりでしたよ。当時はあんまり客観的には見られなかったです。 ――上映後にはどんな反響が届きましたか? 横山:すごく印象的だったのは、「横山健ってめんどくさい」という意見ですね(笑)。もちろんカッコいいと言ってくれる人もいましたけど、ツイッターとかでも「健さん、めんどくさいですね」と言われたりして、僕も「いやぁ、ややこしい人間なんです」と返したり。でも、一人の人間をあれだけ追っかけたらややこしく見えますよ。僕、誰にでもドラマはあると思うんですよ。なんでもない人生を送っていると思っている人でも、ちゃんと時系列に沿って説明をつけて並べてみると、みんなドキュメンタリーになると思うんです。人それぞれのややこしさ、めんどくささがあると思うんで、そういった意味では監督がちゃんと僕のめんどくささ、良く言えば“人間臭さ”をよく出してくれたと思いますね。「僕もみんなと何も変わらないよ」とわかるから。 ――映像作品に加え、今年は初の著書も上梓されました。文章を書くのと話すこと、横山さんのなかでどちらが伝えやすいですか? 横山:どちらにもそれぞれの良さがあるなと思いましたね。文章じゃないと伝わらない熱とか、映像がないと伝わらない熱ってありますから。だから僕は両方好きなんですよ。 ――ピザ・オブ・デスのHPでは長年ブログを書き続けています。今回の著書はそこからの抜粋もあるので、過去に書いた文書を「こっぱずかしい」とも振り返っていましたね……。
横山 健

ピザ・オブ・デスレコーズのHPではSNSなどなかった時代から長年、ブログを書き続けている

横山:そうなんですよ(笑)。書いているときはすごい勢いで書いているんですが、次の物を出すときには「前回のやつ、やたらと熱いなぁ」と思ったり(笑)。まぁそのときに自分が思ったことを書いているので、それでいいんですよ。 ⇒【vol.2】「音楽家とはいえ音の羅列だけでの勝負はやめたい」に続く
https://nikkan-spa.jp/719130
<取材・文/日刊SPA!取材班 撮影/水野嘉之>
横山 健 -疾風勁草編-

パンクロックバンド・Hi-STANDARDの横山健の音楽人生を追ったドキュメンタリー

横山健 随感随筆編

「自分を信じないで、誰のための人生なんだ――」

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