性の目覚めとLGBT…もうひとつの教科書問題「保健体育編」

【週刊SPA!連載】 ★週刊チキーーダ! 飯田泰之・荻上チキのヤバい研究報告書  2016年に学習指導要領が全面改訂されることになった。英語・歴史教育の強化や「道徳」の格上げなどが主なポイントとなるようだが、その陰で見過ごされがちな議論もある。そこで、チキーーダ!では新シリーズ企画「もうひとつの『教科書問題』をスタートさせる。第1回は「保健体育」教科書。荻上チキのリポートだ! ◆もうひとつの教科書問題~保健体育編~【後編】 ⇒【前編】はコチラ  例えばコンドームメーカーの相模ゴム工業が国内で1万人以上に行った調査では、異性以外を恋愛対象とする者が6~10%程度は存在するという結果が出ている。他の類似調査でも、少なくとも5%は当事者がいるのではないかと語られてきた。こうしたデータを見ても、「異性」以外に関心を持つ者は、量的にも多い。さらには「その他」に含まれる、例えば性愛に興味を持たない「無性愛者」なども存在する。つまり《誰もが思春期において異性愛に目覚める》かのような記述は、「ニセ社会科学」なのだ。教科書に嘘が書かれていることになるわけで、文部科学省が社会科学を重視するなら、なおのこと、この記述を改めることが必要だろう。高校教科書では「個人差」について触れているだけ良心的とは言えるけれど、不十分なことには間違いない。  性の目覚めで混乱する生徒は多く、それに配慮するために「誰だってそうなんだよ」「自然なことなんだよ」と語りかけているのだろう。しかしそれが結果的に、性的少数者の不可視化につながらないよう、一層の配慮が必要だ。改定される学習指導要領をめぐっては、ウェブ上でも性的少数者に関する記述を改善する署名運動が行われてもいた。倫理と社会科学の両側面からも、「教科書問題」を語る人が増えてほしいなと思う。 <恋愛対象は必ず異性、なのか?> 全国の20~60代の男女1万4100人を対象に調査。「あなたの恋愛対象は?」という質問に対する回答(全平均) 男性…異性のみ 93.6%、同性のみ 4.9%、両性 1.2%、その他 0.3% 女性…異性のみ 89.8%、同性のみ 7.1%、両性 2.4%、その他 0.7% 出典:『ニッポンのセックス』相模ゴム工業 (http://sagami-gomu.co.jp/project/nipponnosex/【主な教科書の記述~高校~】 ●現代高等保健体育(大修館書店・H24/25版) 保健体育[主な異性への記述] 思春期は、性にかかわる意識も大きく変化する時期です。男女とも異性への関心が高まってきます。同時に性的な関心も高まりますが、その強さやあらわれ方には、個人差はもちろん、男女の間にも明らかに差があります。
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性への関心・欲求と性行動

※性的少数者の記述:なし ●最新高等保健体育(大修館書店・H24/25版) 保健体育[主な異性への記述] 「異性と親しくなりたい」という気持ちや性に対する関心は、思春期になるにつれて男女ともに高まってきます。しかし、性的欲求の強さやあらわれ方には、男女の違いがはっきりとみられます。
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性意識と性行動の選択

※性的少数者の記述:なし ●高等学校保健体育(第一学習社・H24/25版) 保健体育[主な異性への記述] 思春期は、異性に対する関心や異性と親しくしたいという欲求が強くなってくる時期ですが、性に対する意識や行動のしかたは個人差も大きく、男性と女性でもちがいがあります。
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思春期の心の成長

※性的少数者の記述:なし 【飯田泰之】 ’75年生まれ。エコノミスト。明治大学准教授。「『スキン』がクラスの流行語だった小学時代、英和辞典でエロ系の単語をいくつ発見できるかを競った中学時代……」 【荻上チキ】 ’81年生まれ。評論家。『シノドス』編集長。「『ティッシュ』という単語が下ネタだった小学時代、AVを持っていると英雄扱いだった中学時代。先生は何も教えてくれなかった」 調査協力/山本菜々子
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