きっかけは「獺祭」。今、日本酒が面白い
【週刊SPA!連載】
★週刊チキーーダ!飯田泰之・萩上チキのヤバい研究報告書
今回のチキーーダ!は、飲んべえ・飯田が、麻布台の和食料理店「杉もと」を訪問。ブームとなっている日本酒の面白さ&味わい方を店主・杉本修一さんに聞いた!
◆今、日本酒が面白い理由。― 福島の「食べるお米でできた酒」を飲みながら ―
飯田:ずっと消費量が落ち続けてきた日本酒ですが、近年、ブームとなっています。きっかけは、『獺祭』(山口)ですかね。
杉本:それは間違いないですね。
飯田:『獺祭』が入り口だったとしても、今、日本酒の味はバラエティ豊か。好みの日本酒を見つけられるというのがブームを後押ししている気がします。
杉本:多様化はすごいですね。『黒龍』(福井)や『新政』(秋田)のキリッとしたお酒もおいしいですし、『作(ザク)』(三重)、『醸し人九平次』(愛知)などの微発泡も面白いですよ。女性にも飲みやすく、日本酒好きの男性もきっちり味わえる。ただ残念なのは、しっかり冷やして出すお店が多いこと。冷やでもおいしいですが、香りも楽しまなきゃもったいない。
飯田:推測ですが、昔の普通酒、いわゆる三増酒は熱燗にしないと飲めなかった反動で、冷やで飲めるお酒はいいお酒みたいな感覚があるのかもしれません。
杉本:世代と嗜好の関係はありますね。60歳以上の方は昔のベタベタなお酒に慣れているので、20年ほど前にブームになった新潟の地酒も、「女酒」「水みたい。こんなの酒じゃない」という感じでしたし、いまだに日本酒は燗だと思っている。
飯田:逆に、30代40代は三増酒の経験がなく、先入観なく甘口のいい日本酒も受け入れられる。
◆造り手の世代交代で新しい挑戦も
杉本:酒蔵の社長や杜氏さんなど、酒造りの担い手側のほうも、世代交代が進んでいます。
飯田:彼らは幼いながらも日本酒不遇の時代を見ているから、危機感もある。だからこそ、新しいことに挑戦できる。
杉本:そのとおりで、日本酒はどんどん進化していきますよ。
飯田:杉本さんは、会津錦(福島県)の新ブランド『Q[ku]』にも関わってるんですよね?
杉本:お店の常連さんで福島の復興支援をしている方が、「杉本さん、これ飲んでみませんか」って、持ってきてくれたんです。店を出して10年、日本酒はそれなりに飲んでるつもりですが、今までにないお酒だなって思って。よくよく聞くと、地元で食べるお米、「天のつぶ」という食べられるお米で醸したお酒だと。
飯田:普通にごはんとして食べられるお米なんですね。
杉本:もともとは福島の復興支援で行って、売れずに残ったお米をなんとかしたいというのがスタートだったそうです。通常、飯米でお酒を造るとクセも味もないサラッとしたお酒になりがちなんです。でも、そのお酒は、ごはんを炊く湯気の香りを感じ、一口飲んだときに、お米をゆっくり噛んだときのような甘みが口に広がる。「これ、仕入れたい!」って言ったら、実はまだ名前もないお酒で、一緒に造ってもらえませんか、となって。
飯田:作り手が消費に近いところと組む意味は大きいですよ。
杉本:その常連さんは蔵元さんに対して思い入れがあるから、ダメ出しができない。そうじゃない人にジャッジしてもらいたいというのもあったみたいです。
飯田:客観的な立場というのは、重要です。まず一緒にやるのが復興支援のファーストステージだとしても、次にビジネスとして考えていくとき、意見できる存在というのは必要ですからね。
後編「長熟させる日本酒」では、ボトルやラベルのこだわりから、家呑みにオススメの純米酒も聞いてみました。
【杉本修一氏】
麻布台にある「和食 杉もと」店主。都内のホテル(京懐石、ふぐ料理等)で修業を始め、赤坂の料亭、ホテル料理長などを経て2005年8月に独立。英語堪能な唎酒(ききざけ)師の資格を持つスタッフとともに、旬の素材を生かした料理と酒を提供する。東京都港区麻布台3-3-19 03-3586-1455(予約制) 日曜祝日定休 http://www.azabudai-sugimoto.com/
【飯田泰之】
’75年生まれ。エコノミスト。明治大学准教授。「2015年もあと残すところひと月少々! ラストスパートに向けて、酒量も加速度的に増加する予定」
【荻上チキ】
’81年生まれ。評論家。『シノドス』編集長。「先日、34歳になりました。もうさすがに“若手”と括られなくなるので、ほっとしています」
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