「保健体育の教科書」で性的少数者は扱われているか?
【週刊SPA!連載】
★週刊チキーーダ! 飯田泰之・荻上チキのヤバい研究報告書
2016年に学習指導要領が全面改訂されることになった。英語・歴史教育の強化や「道徳」の格上げなどが主なポイントとなるようだが、その陰で見過ごされがちな議論もある。そこで、チキーーダ!では新シリーズ企画「もうひとつの『教科書問題』をスタートさせる。第1回は「保健体育」教科書。荻上チキのリポートだ!
◆もうひとつの教科書問題~保健体育編~
2016年、学習指導要領の改定が行われる。そこで本連載でも、さまざまな教科書について考えてみるシリーズを開始するぞ。最初に取り上げるのは、中学・高校の保健体育の教科書だ。
日本の保健体育の教科書にはかねてより、性的少数者(セクシュアルマイノリティ)に関する記述がないことが問題視されてきた。最近ではLGBT(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランス)という表現が使われることも多くなったけれど、ともあれ教科書に記述がないことで、多感な時期に性的少数者の存在が不可視化されてしまうことになってしまう。
ただでさえメディアでは、性的少数者をネタにする表現も多く、一方で、当事者の姿を自然に描くドラマなどはまだまだ少ない。学校でも生徒が、時には教師も含めた大人が、「オカマネタ」などを口にし、嘲笑する空気をつくりあげたりもする。そのうえさらに、教科書や授業でその存在が無視されると、「自分はおかしいんだろうか」という当事者の苦悩を招いて自尊心を傷つけたり、非当事者の無関心や偏見を拡大してしまうことにもなる。性的少数者はいじめの対象にもなりやすく、そのことでハンディキャップを背負わされることも少なくない。
以下に、検定を通った保健体育の全教科書にある記述をまとめてみた。共通しているのは、「思春期になると異性への関心が高まる」といった表現。これはなかなかに問題だ。人道的観点に加えて、科学の問題もある。
【主な教科書の記述~中学校~】
●中学保健体育(大日本図書・H23/24版)
[主な異性への記述]
異性に関心をもち、好きだと思う気持ちは心を豊かにしたり、毎日を生き生きと過ごす活力を与えてくれたりする面もあります。異性とよい関係を築くためには、男子と女子とでは性に対する考え方や行動が異なることを、おたがいが十分理解することが大切です。
※性的少数者の記述:なし
●中学保健体育(学研・H23/24版)
[主な異性への記述]
思春期になると、性機能の成熟に伴って、性のことや異性への関心が高まったり、性的欲求が強くなったりします。また特定の人と親しく交際したいといった、友情とは違う感情も生まれてきます。
※性的少数者の記述:なし
●保健体育(大修館書店・H23/24版)
[主な異性への記述]
思春期になると、心の面でも変化が起こってきます。自分が異性からどのように見られているか異性の目が気になったり、性についてもさまざまなことを知りたくなってきます。また、異性とふれあいたいなどの異性への関心も高まってきます。
※性的少数者の記述:なし
●新しい保健体育(東京書籍・H23/24版)
[主な異性への記述]
思春期に入り、生殖機能が成熟してくると、自然に異性への関心が高まり、友情とは違う感情が生じてきます。また「異性のからだに触れてみたい」といった性衝動が生じる場合があります。
※性的少数者の記述:なし
⇒【主な教科書の記述~高校~】https://nikkan-spa.jp/766230
【飯田泰之】
’75年生まれ。エコノミスト。明治大学准教授。「『スキン』がクラスの流行語だった小学時代、英和辞典でエロ系の単語をいくつ発見できるかを競った中学時代……」
【荻上チキ】
’81年生まれ。評論家。『シノドス』編集長。「『ティッシュ』という単語が下ネタだった小学時代、AVを持っていると英雄扱いだった中学時代。先生は何も教えてくれなかった」
調査協力/山本菜々子




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