「長友佑都が一流である理由」パーソナルトレーナーが語る
日本代表不動の左サイドバックにして、セリエAの名門インテル・ミラノでは副キャプテンとしてチームを牽引する長友佑都。圧倒的な運動量を武器に躍進を続ける長友だが、長きにわたって彼を見続けてきた“恩人”の着眼点は少し異なる。
「長友選手の最大の強みは、『意思の強さ』にこそあります」。
そう指摘するのは、明治大学在籍時から長友のパーソナルトレーナーを務めてきた木場克己氏。「スピード、スタミナ、体幹の強さなど、フィジカル面はもちろん一流です。ただし、それらを獲得できたのは、彼が昔からぶれることなく持ち続けてきた意志の強さであり、継続する力にあると私は思っています」と強調する。
そもそも長友と木場氏が出会ったのは、長友が大学のサッカー部に所属しながら特別強化選手としてFC東京の練習にも参加していたときにさかのぼる。2人を引き合わせたのは、当時、FC東京に所属していた元日本代表GK、土肥洋一氏だったという。
「当時、腰痛に悩まされ、サッカー選手への道を断念しようかとも考えていた長友選手に対して、土肥さんが『木場さんというトレーナーがいるから、諦める前に一度、会ってみないか』と声をかけたそうです。出会った当初から、長友選手は少しでもプラスになりそうなことは貪欲に取り入れ、どんどんと吸収をしようとしていました。腰の怪我のせいでベンチにも入れず、スタンドで太鼓を叩いてチームを鼓舞していたエピソードは有名ですが、当時の彼は逆境にもかかわらず、決して腐ることなく、むしろ明るいオーラを常に放っていたのをよく覚えています。そういったポジティブな姿勢を崩さずにいられたのは、『サッカーを続けたい』という強い意志があったからにほかなりません」
こうして長友と出会った木場氏。しかし、その後に行った精密検査の結果は深刻だった。
「MRIやCTを撮って彼の体の状態をチェックすると、椎間板ヘルニアと腰椎分離症を患っていることが判明しました。特に状態がよくなかったのが腰椎分離症。腰椎分離症はスポーツ選手にとっては珍しくない症状ですが、彼の場合は左右の腰椎が折れているうえに、腹筋の前部と背筋だけが強い筋力バランスの悪さが状態を深刻化させていました。そこで、まず、私は当時の長友選手にとって肉体的に弱い部分、具体的には上体や腰をひねるための筋肉の柔軟性を向上させることから始めました。これはとても単純なストレッチです。痛みを抱えている選手に、いきなり負荷の大きい体幹トレーニングを行うのは、症状を悪化させてしまうだけで逆効果。弱い筋肉をストレッチで柔軟にして、緩めることが最優先です。アスリートにとってストレッチだけから始める、というのはあまりにも簡単すぎる、と思われるかもしれません。しかし、長友選手に『継続させる』ためにはとても大事なことでした。これはトレーニングやリハビリだけでなく、すべてのことに共通するのですが、何かを継続し、成果を得るために大事なのは『初動』なのです。初動でうまく乗り越えることができれば、後はスムーズに進みます」
当時の長友は大学に通いながら、FC東京の練習にも参加するという立場であったため、木場氏が実際に指導できたのは、多くても週に2回程度。復帰への道は長友自身の自主性によるところが大きかったと当時を振り返る。
「私のアドバイスや指示に対して、長友選手は素直に耳を傾け、実行をしていきました。だんだんと効果が実感できるようになれば、さらに彼のやる気も高まっていったようでしたね。腰の痛みが和らいでくるにつれて、次第にサッカーのパフォーマンスを高めるトレーニングにシフトしました。もとから強い意志を持ってサッカーに取り組んでいたうえに、自信と結果が伴ってくれば、あとはもう周囲の助けなどなくても、どんどんと自らトレーニングに打ち込んでいける好循環が生まれ、今日の活躍に繋がっているように思えます」
北京オリンピックに2度のワールドカップ、セリエA……。その後の檜舞台での躍動はすでに誰もが知るところだろう。しかし、木場氏は、長友のさらなる進化を予言する。
「一般的に人間の体は20代前半をピークに筋力は衰えていきますが、医学や栄養学などの発展により、あらゆるスポーツにおいて、アスリートの選手寿命は確実に延びています。サッカーに関していえば、20代後半までに筋肉に大きなダメージを受けていなければ、35歳までは身体的にも高いレベルのパフォーマンスを見せることができると考えています。長友選手には彼がリスペクトしているアルゼンチン代表最多出場記録を保持しているハビエル・サネッティが引退を決めた40歳まで現役を続けてほしいです。まだまだアスリートとして肉体的に大きく衰える年齢ではないですし、効率的なトレーニングとケアを並行すれば、今よりももっと成長できる可能性を秘めています」
【木場克己(こば・かつみ)】
1965年、鹿児島県出身。KOBAスポーツエンターテイメント株式会社代表取締役。長友のほか、2011 FIFA女子ワールドカップの日本代表の優勝に貢献した大儀見優季、女子柔道オリンピック2大会連続で金メダルを獲得した谷本歩実など数多くのアスリートの個人トレーナーを務める。また、都内の治療院にて世代を問わず、ケガの治療やトレーニング指導を実施。継続するためのモチベーション維持の要点を明かした新刊『続ける技術、続けさせる技術』が好評発売中
<取材・文/日刊SPA!編集部 撮影/大根アツノリ>
|
『続ける技術、続けさせる技術』 継続力を高める方法を「メンタル」「コミュニケーション」「目標設定」「時間管理」の4つのキーワードから伝授 ![]() |
【関連キーワードから記事を探す】
58歳になった“キングカズ”こと三浦知良。「40年目のシーズン」突入で、いったい何を見せてくれるのか
J2優勝“翌シーズン”にJ1優勝争いのFC町田ゼルビア。黒田監督が「たった2年でトップチームに押し上げた」2つのこと
サッカーW杯日朝平壌決戦の行方。カギは定期便と人的往来再開か
“北朝鮮へ旅行”できる日は来る!? 政府間の秘密接触、サッカー日朝戦で、断絶に変化か
「アディダスの史上最古モデル」スタンスミス以上に今、オススメできる理由
この記者は、他にもこんな記事を書いています