「派遣法の改正は悪!」と条件反射で飛びつく人は“浅はか”
連載08【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】
▼「改正労働者派遣法は天下の悪法」のウソ
改正派遣法に必死になって反対している方々がいます。残念なのですが、「“派遣”を半永久的に固定する“生涯”派遣法だ」という主張は的はずれであり、完全なミスリードです。法案の中身をロクに読んでいないか、安倍政権を批判する目的のためにだけに利用しているにすぎません。「派遣」という言葉に条件反射で飛びついて、批判のネタとして利用するのは、浅はかとしか言いようがありません。
反対派のウソを暴いていきましょう。
まず、改正内容の主な部分を要約すると次のようになります。
◯専門26業務の撤廃
→これまで専門26業務には雇用期間の制限はなく、そのほかの業務の派遣期間は3年という限定があったが、今回の改正で専門26業務を廃止。すべての派遣社員は同一事業所、同一業務で3年以上働くことができなくなる。
◯すべての労働派遣業者を許可制に
→これまでは届け出さえすれば派遣業を営むことができたが、改正後はすべて許可制に。
◯雇用期間を業務単位から個人単位に
→雇用期間は業務単位で決まっていたが、派遣労働者個人単位で雇用期間を区切ることに。
◯派遣社員のスキルアップ促進義務の追加
→改正案では、派遣社員のスキルを向上させるために計画的、定期的に技能研修訓練を実施する必要がある。
これらを順に解説していきます。
▼専門26業務の廃止の目的
今回の法改正で、専門26業務が廃止となりました。専門26業務とは「専門的な知識・技術」などを必要とする、派遣法施行令で定められた26種類の業務のことです。
例えば、派遣法ができた1985年当初、パソコン作業は「専門的な知識・技術」が必要な専門業務でしたが、今では一般的な業務です。時代の変化によってパソコン業務は誰でもできる「一般的な業務」に変わってしまったのだから、時代にそぐわなくなった法律は保守、メンテナンスしなければいけません。これが法改正の目的です。この法改正によって、『すでに専門性はないにもかかわらず、法律上は専門の派遣社員』を利用して、半永久的に派遣社員を雇い続けることができなくなりました。このような時代の変化によって生じた法律の抜け穴を突いて、不当な雇用が横行している事態を放置しておくべきではないと思います。しかし、反対派は「生涯派遣」を放置すべしという考え方のようです。
▼ブラック派遣業者の排除
届け出制から許可制への改正は、ブラック企業を憎む共産党は諸手を挙げて喜ぶべき改正だと思うのですが、見て見ぬふりでしょうか? 現行法では、届け出さえすれば派遣業務を行うことができる「特定労働者派遣事業」が存在していますが、法改正後はすべての業者が監督官庁の審査を経て許可を受けなければならない「一般労働者派遣事業」のみになります(移行措置あり)。
よく派遣社員の給料をピンはねしたり、ロクな派遣先を紹介しない「ブラック派遣業者」の話を聞くのですが、当然ながらその業者のほとんどが届け出のみの「特定労働者派遣事業」です。現在8万ある派遣業者のうち、約6万が特定労働者派遣事業なので、今回の法改正でかなりの悪徳業者が淘汰されるはずです。
これは、派遣労働者に有利な話です。反対派は悪徳派遣業者を野放しにして構わないとお考えなのでしょうか? 理解に苦しみます。
▼派遣の無限ループからの脱却を促す雇用期間の改正
雇用期間が「業務単位から個人単位」にという変更点はあまり知られていないのですが、今回の改正案のなかでもっとも画期的です。現行法では派遣労働者には3年の雇用期間が設定されていましたが、この期間は派遣社員それぞれ「個人」に割り当てられたものではなく、派遣先の「業務」単位で区切られていました。目的は正社員の雇用を守ることだったのですが、実はこれが派遣社員や非正規雇用の正社員化を阻む温床だったのです。
どういうことかというと、現行法では業務ごとに派遣労働者を雇う期間が決まっているため、業務開始直後、例えば2012年から派遣として雇われていたAさんと、2013年から派遣されたBさん、2014年に派遣されたCさんは2015年までしか同一業務で派遣として働くことができません。そのため、2015年に派遣先企業は一括してこの三人の処遇を決めねばならないのですが、困ったことに、3人のキャリアはまったく異なります。
Aさんは3年間派遣先で働いていましたのでスキルは十分に取得しています。派遣先企業も正社員として迎え入れたいと考えていますが、Bさんは2年、Cさんは1年しかキャリアを積んでいないので、正社員としてはやや力不足。できれば派遣先はAさんのみを正社員として雇い、BさんCさんを雇い止めしたいと考えます。しかし、当然ながらBさんとCさんは納得できません。
訴訟、紛争に発展しかねないので、派遣先企業は無難に三人を有期での直接雇用に切り替えます。しかし、法律によって5年連続で雇用すると無期雇用に切り替えなければならないため、ほとんどの場合5年にならない期間で雇い止めになります。そして、職を失った三人は再び派遣社員に。……これが派遣雇用の無限ループを生んでしまう現行法の問題点です(図1参照)。これでは正社員になることは非常に困難です。
⇒【資料】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=890936
ところが法改正後は、業務単位での派遣期間が見直され、派遣期間は派遣社員個人単位で切られるようになります。この場合、派遣労働者は派遣先で最長3年間きっちりと勤めることが可能になり、先ほどの三人のように「同時に派遣終了」ということもありません。企業は三人を個別に正社員として登用するかどうかの判断ができるようになり、正社員として登用される可能性が高くなります。
そう考えると、今回の法改正は派遣先企業と派遣労働者の双方にメリットがあります。派遣先企業は3年間きっちりと派遣労働者を試用することで、仕事に対する適正を正確に評価でき、さらに派遣社員を正社員に登用した場合は新たな教育コストがかかりません。新卒や中途採用で正社員を登用するよりもはるかに効率的であり、低リスクです。
一方、派遣労働者にとっても派遣先でまじめにキャリアを積み重ねていけば正社員になれる可能性が広がるため、派遣の無限ループからの脱出も容易になります。反対派が主張する「生涯ハケン」や「正社員ゼロ化」とは何を根拠に言っているのでしょうか。
▼派遣社員に対する教育の義務化
また、今回の改正により派遣元に派遣社員の教育が義務付けされますが、このことについて反対派は「派遣元には派遣社員を教育するメリット、インセンティブがないため、どうせポーズだけの適当な教育をやるだけになる。派遣社員のスキルアップやキャリアアップにはつながらない」と批判しています。
しかし、これは明らかに誤りです。先ほど説明した派遣期間の見直しにより、今後派遣先企業は正社員候補となるような優秀な人材を派遣してくれる派遣業者をより高く評価するはずです。もし、派遣業者が労働者の教育を怠り、ロクな人材しか派遣できない場合は愛想を尽かされ、淘汰されることになるでしょう。今回の法改正により派遣社員は単なる使い捨ての駒ではなくなります。
▼そもそも前提条件が間違っている
そもそもですが、マスコミや反対派の主張は、「派遣労働者の切り捨て自由化」「正社員がいなくなる」というものですが、それはこれまでのデフレの経済を前提にしていると考えられます。
しかし、アベノミクスの推進によって、労働市場は売り手(労働者側)が有利な状況になりつつあり、企業は雇用条件を改善していかないと優秀な人材は集まりません。参考までに派遣労働市場の状況については次のグラフ(図2)を見ていただければおわかりいただけると思います。
⇒【グラフ】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=890937
派遣労働者の募集時の時給は、民主党政権時に比べて、100円以上もアップしています。つまり、時給を100円上げなければ、派遣労働者の人員を確保することが難しくなっているということです。このような状況で派遣切りや不当な給与の中間搾取などできるでしょうか? 私は無理だと思います。
労働基準法違反の疑いで書類送検されてしまったABCマートのように、今後派遣社員や非正規労働者を使い捨てにしている企業は間違いなくその代償を払うことになるでしょう。
▼まじめに努力したものが報われる世の中に
派遣法の改正によって派遣社員は3年間のスキル習得期間と、派遣先の信頼を獲得する機会を与えられました。これが今回の法改正の肝であり、まじめに努力した者が報われる世の中を築くための第一歩になるものと思います。
◆まとめ
・時代に合わなくなった専門26業務を廃止、派遣社員の固定化問題を解消
・改正労働者派遣法は派遣社員の正社員化を促す法案
・優秀な正社員を求める派遣先企業と、正社員化を望む派遣社員の双方のニーズが満たされる
・アベノミクスにより労働市場は売り手市場に。この状況で派遣社員を使い捨てるのは自殺行為
・派遣社員は3年間の雇用期間の中でキャリアを詰めば正社員化への道が開ける
【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。4児のパパ
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