ミュージシャンが小説に初挑戦! 岸田戯曲賞作家も驚いた書き込み具合とは?【黒木渚×松井周対談】

松井周(左)と黒木渚
松井:知り合いの編集者に、「小説を書こうとしているミュージシャンがいる」と教えてもらい、黒木さんのライブに連れていってもらったんです。そのライブで、ものすごくパワーのある人だなと思って。それで、黒木さんがどんな小説を書くのか興味がわいて、作品を読ませてもらったんです。
――作品を読んで、アドバイスを送られたと。
松井:アドバイスというほど大げさなものではないのですが(苦笑)、黒木さんの作品は最初から世界ができあがっていたので、読んだ感想をお伝えして、ストーリーがスムーズに繋がっていくための助言を行いました。
黒木:松井さんの助言はすごく的確で。大幅に書き直すのではなく、読点を入れる場所を変えたり、セリフの頭に「うん」、「そう」を入れたりするだけで、登場人物たちの会話がより円滑になるんですよ。一呼吸なのにすごいなって。
――松井さんは劇作家だけではなく、演出家としても活躍されています。黒木さんの小説には、どのような視点で助言していたのでしょうか?
松井:今思うと、黒木さんにはもっと文章で遊んでほしいと考えていた気がします。そういう意味では、演出をしていたのかな。演出家は、俳優にやる気を出してもらうのが仕事のひとつなので。
黒木:松井さんには、ものすごく感謝していますが、とんでもない人にお願いしちゃったなという思いもあって(苦笑)。
松井:そうなんですか?(笑)。
黒木:松井さんが書いた『アガルタ』(文藝2015年春季号に掲載)を読んで、打ちひしがれたんです。めちゃくちゃな世界観なのに、会話がとても自然で……。
松井:『アガルタ』はあまりにも異常な世界だったので、会話を分かりやすくしたんですよ。
――排泄物から作られたドラッグで、日本がだんだんおかしくなっていくという『アガルタ』のダークな部分は、『壁の鹿』に通じるところがありますね。
黒木:もともと江戸川乱歩の作品を愛読していたこともあって、好きか嫌いかで言うと、大好きな部類です(笑)。理解されないことを歌うのはナンセンスだと思うので、音楽ではそういった部分を出しませんでしたが、音楽以外のジャンルに挑戦できるときに同じ目標だとおもしろくないと思って。小説で私のダークな部分が爆発しちゃったのかもしれません。
◆世界の異なる2人の意外な共通点
――松井さんは『壁の鹿』を読んで、どのように感じましたか?
松井:最初に思ったのが、語彙が豊富で、どこまでもディテールを書きたい人なんだなと思いました。例えば、物語の冒頭に出てくる鮭の皮をはがすシーン。「そこまでこだわるんだ!」と驚くような書き込みで。あとは、「体中の皮膚が粟立つのを感じた」とか、言い回しが古風だなって。無理やり使っているのではなくて、自然な形で登場するので、この表現じゃないとダメなんだという強い気持ちを感じましたね。
黒木:私、音楽の歌詞は引き算の考え方で作詞しますが、小説はもっと膨らませないといけないという思いがあって。それでつい、ディテールにもこだわってしまうんです。
松井:とくに第1話はギチギチにつまっていましたよね。どれくらいのペースで書き上げたんですか?
黒木:第1話は20日くらいで書きましたが、そこに時間をかけすぎちゃって。第2話を2日で書くことになっちゃったんです(苦笑)。ただ、第2話は結婚詐欺師の男が主人公で、騙し騙されたり、恋愛のエロいシーンを書いたりするのが楽しくて。第2話を2日でかけたのは大きな自信になりましたが、第3話での恋愛体質な女のコの話は悩みに悩んで、最後は暴走しちゃいました(笑)。
松井:第3話の暴走は本当にすごかった(笑)。こんなにもどろどろしたものを書く人だったんだって。
――第3話で、黒木さんのスイッチが入った感じでしたよね。
黒木:そうですね。死なないはずの人が死んじゃったりして。
松井:「心を再生させるには、死ななきゃいけない」って話になってね。
――第5話の「夢路」というエピソードも、文章がドライブしていてすごいなと感じました。音が聴こえてくるというか、これぞ音楽家が書く文章なんだなって。
黒木:「夢路」のエピソードは、気分が悪くなるくらい集中して勢いで書き上げました。ただ、倫理的にアウトなところもあって、だんだん何が普通で、何が普通でないのか分からなくなってくるんですよね。
松井:勢いで書いたのがよかったんじゃないかな。「猿を殺して射精しちまったのか」とか、このエピソードに登場するセリフはとにかくすごい。方言での会話もすごくスムーズで、よりリアルに迫ってくるというか。それと、死に際の人間の意思を書き込んでいるんだけど、こっちにもやばさが伝わってきて、黒木さんとは別の意味で気分が悪くなってくる(笑)。
黒木:でも、松井さんの『アガルタ』を読んだとき、「この人も相当だな」と思いましたよ(笑)。逆にここまでしていいんだという安心感はありました。
松井:僕は、ここまでものを書いてくるなら負けられないなって。人が死んでいくときの皮膚感覚と言うのは、文章で書くのが難しいんです。とくに、殺人のシーンでは想像力にブレーキをかけてしまいやすいんですが、黒木さんはブレーキをかけていない感じがしてすごくドキドキしました。
――確かに、第5話は鬼気迫るものを感じました。
松井:僕は以前、師匠の平田オリザ(劇作家、演出家)さんに、「おまえは表現者になっていなかったら、殺人者か犯罪者になっていた」と言われたことがあって。
黒木:お互い犯罪者にならなくてよかったですね(笑)。
松井:本当に(笑)。ですから、もんもんとしている人たちに演劇や小説を通して、こっそり手紙を書いている感覚があって。我々で表現者になれば大丈夫だよって伝えていきましょう。
黒木:そうですね。産みの痛みを忘れることができたので(笑)、小説は今後も書いていきたいと思います。
◆アルバムと演劇での新たなチャレンジ
――小説を書いた経験が、曲作りに活かされているなと思うことはありますか?
黒木:めちゃくちゃありますね。例えば、ニューアルバムの『自由律』に収録した「白夜」という曲は、ただひたすらに音楽的な快楽を追っているんです。小説で構成や時系列をきっちりやったので、音楽は楽しくやらせてくれという思いがあって。
――『自由律』にはどのようなテーマが込められているのでしょうか?
黒木:『自由律』には、黒木渚の美学やルールといった定型を壊すというテーマがあって。ちょっと窮屈になり始めた時期だったので、小説を書いてみたりしたのですが、音楽でも定型を壊していかないと、いつか限界がきちゃうなって。
――新曲が多いのも、その意思の強さが伝わってきます。
黒木:「虎視眈々と淡々と」や「君が私をダメにする」以外に収録したい曲もあったんですが、悩めば悩むほど、すべての曲を入れたくなっちゃって。新曲が少ないと悲しむかなと言う思いもあって、今回は新曲の数を増やしました。
――黒木さんと同様に、松井さんも演劇で新たなチャレンジをしているそうですね。
松井:僕が手掛ける劇作は、黒木さんが描く作品と似ていて、とにかく情報量が多いんですね。1つの作品のなかにテーマをたくさん入れて、とにかく大きな世界を作りたいんですが、今回はそれをやめてシンプルな舞台にしようと。

劇団サンプルの最新作『離陸』は三人芝居だ ©中島伸二

劇団サンプル『離陸』で役者として初めて舞台に立つ世界的ダンサーの伊藤キム氏 ©中島伸二
●黒木渚 2nd Full Album『自由律』
2015年10月7日リリース。限定盤Aには、『鹿の壁』の単行本が同梱される。
詳しくは公式HPへ⇒http://www.kurokinagisa.jp/jiyuritsu/
●松井周 作・演出・出演『離陸』
東京公演2015年10月8日~18日 早稲田小劇場どらま館
詳しくは公式HPへ⇒http://samplenet.org/2015/06/05/16_takeoff/
文/黒田知道
【関連キーワードから記事を探す】




