更新日:2022年06月29日 10:07
カーライフ

制限速度120km。新東名のアウトバーン化が遠のいた理由

遡ること13年前――。清水草一は、「高速道路建設は道路族の利権であり悪」という空気のなか、新東名が6車線から4車線に減らされることに、敢然と異を唱えておりました。せっかく造っちゃったものをわざわざ狭くするのは愚の骨頂。6車線にしたほうが渋滞も事故も減ると。そんな新東名が名古屋方面に少し延びて便利になりました!
新東名 浜松いなさ―豊田東間開通

きつねなく 声もうれしくきこゆなり 松風清き 茶臼山かね(信長)

清水草一=文 Text by Shimizu Souichi

延びた新東名をさっそく試走。淡い期待が夢幻の如く消えました

 日本唯一の高速道路ジャーナリストとして、さっそく新東名の新規開通区間(浜松いなさ-豊田東間)を走って参りました!  大マスコミは「東名の渋滞解消か!?」、「その経済効果は?」と言った紋切型の記事を載せていたが、こちとら筋金入りの高速道路オタクだ。そんなことは言わずもがなのアタリマエ。ワタクシが注目していたのはその設計だった。  先に開通済みの御殿場-浜松いなさ間は、当初6車線の計画だったが、工事中に道路公団民営化があり、’03年に「コスト削減のため暫定4車線にて開業」と変更された。一時はバカマスコミに「戦艦大和級のムダ」と書きたてられ、建設中止が正義という空気になっていたので、建設続行が決まっただけでも御の字ではあったが、内心かなり落胆したものだ。  しかし’12年の開業時、実際走って見て驚愕。工事着手の早いトンネル部や橋梁部を3車線×2の幅で造っていたのはわかっていたが、地上部もほとんどの区間で6車線分の幅があり、それをガードレールでわざわざ4車線に減らしていただけだったからだ。しかも、全体の約4割の区間は、「付加車線」という名目で事実上6車線化されていた。  グッジョブNEXCO中日本!  これなら簡単にフル6車線化できる。いつか制限速度を時速120㎞に上げるのも夢ではない。
新東名が延びて名古屋が近くなりました!

新東名が延びて名古屋が近くなりました!

 して、それに続く浜松いなさ-豊田東間(今回の開通区間)はどうなのか。ワタクシはそこに注目していたのである。こちらも「暫定4車線開業」がタテマエだが、簡単に6車線化できる構造だろうか?  浜松いなさJCTを過ぎると、道幅がガクッと狭くなった。げっ、これは正真正銘フツーの4車線構造! 防音壁が迫っているぶんメッチャ狭く感じる。富士スピードウェイから筑波サーキットに来た気分。  ガックリ。  最大のショックは、トンネルも2車線×2の設計だったことだ。盛土などの土工部は4車線から6車線に拡げることもできるが、トンネルは無理。別線トンネルを掘るしかない。
新規開通区間55㎞中53㎞は片側2車線です

新規開通区間55㎞中53㎞は片側2車線です

 日本のアウトバーンの夢、ここに潰えたり……。  とは言えこの開通で、東名と新東名両線を合わせ、東京から名古屋まで全区間が6車線以上(最大10車線)となった。日本の物流の大動脈が大幅に強化されたのだ。一番交通量の多い厚木-横浜町田間(途中に渋滞名所の大和トンネルあり)が6車線のままなのは強烈なネックだが、今回の開通で岡崎インター付近の慢性的な渋滞は解消され、大地震などの災害にも強くなる。実にめでたいことである。 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1060395  開業翌日とあって、新設されたSA・PAは大賑わい。特に私が感動したのは、長篠設楽原(ながしのしたらがはら)の下りPAである。なんせPAから直接、長篠合戦の際に織田信長が本陣を置いた茶臼山に登れる! 施設内の戦国イメージも濃厚で、信長コスプレコーナーまであるじゃないか。まさに戦国PAの名に恥じないつくりだ(上りPAからは茶臼山に行けません)。 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1060397
(長篠設楽原PA)
長篠設楽原PAはぜひとも立ち寄りたい。

長篠設楽原PA(下)はぜひとも立ち寄りたい。北から南まで全国のSA・PAを取材しましたが、歴史的合戦跡地にサクッと行けるのはここだけ!ブオ~(法螺貝)

⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1060401
(岡崎SA)
上下一体の岡崎SAは開業直後とあってか大混雑。

上下一体の岡崎SAは開業直後とあってか大混雑。特に昼時は、駐車場に入るまではもちろん土産屋も食事処も人だらけ。

 今回の取材には、もうひとつ目的があった。それは私の新しい愛車・スーパー節約号(6年落ちのランチア・デルタ・ディーゼル)と、新型プリウスの燃費対決である。 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1060405
新型プリウスに燃費で大勝利!

ランチア・デルタは1600㏄のディ-ゼル搭載。アイドリングストップもないが、高速巡航ではディーゼルは有利。逆にプリウスは高速巡航が最大の苦手。

 日本人の多くは、「プリウスは燃費世界一」と信じていることだろう。まさか享楽的なイタリア車に燃費で負けるはずがないと。しかし私には勝算があった。なにしろ軽油はガソリンよりリッターあたり20円ほど安い。高速の燃料代対決ならいい勝負になるはずだ。双方620㎞走行した結果は!?  新型プリウス…リッター23㎞ VS ランチア…リッター19.4㎞  いわゆる燃費数値では負けた。しかしこれが燃料代の比較だと……。  新型プリウス 2731円(@101円)VS ランチア 2685円(@84円)  僅差でイタリア製中古車の勝利! 信じられないかもしれないが事実である。
新型プリウスに燃費で大勝利!

新型プリウスに燃費で大勝利!走りが大幅によくなった新型プリウスだが、やはり高速巡航燃費は今ひとつ伸びず。軽油の安さもあって、燃料代は2731円対2685円でランチアの勝ちだった

【結論】 それにしても、東京から豊田まで往復して、燃料代が3000円弱。信じられない安さじゃないか! この原油安の恩恵を生かさないテはない。複数人での国内旅行ならクルマが安いヨ!渋滞も減ってるしネ!
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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