美琴、内定取り消しをママに告白――連続投資小説「おかねのかみさま」
みなさまこんにゃちは大川です。
連続投資小説『おかねのかみさま』27回めです。
今回の原稿も六本木「SLOW PLAY」で書いてます。最近おにぎりが出ます。
※⇒前回「あはーん」
〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
美熟女(熟) 銀座の高級クラブ「サーティンスフロア」のママ。
〈第27回 予定〉
健「あの、僕、健太って言います。むちゃくちゃなこと一気にしゃべっちゃいましたけどご覧のとおりどこにでもいる大学生です。村田さんがよければ、ぜひ、これからもいろいろ人生について教えていただけたらうれしいです」
村「あのな」
健「はい」
村「人生について教えていただけたら嬉しいのは、誰でもそうなんだよ」
健「はい」
村「お前はそれを俺に告げるとき、何か俺のメリットについて考えたか?」
健「え、いや、えと」
村「考えてないよな」
健「…はい…ごめんなさい…、でも、僕、お金もないし、女性じゃないからあはーんとかうふーんとかもできないし、正直僕にできることなんてなんにもないです」
村「あるんだよ」
健「へ?」
村「あるんだけど、まだそれに気づいてないだけだ。だけどそれに気づくためにはお前は世界を広げたほうがいい」
健「世界…」
村「お前の世界は狭い。大学と、居酒屋と、吉野家と、お前の四畳半だ。俺も学生時代はそうだった。パッとしない大学の、パッとしない授業を受けて、毎日バイトに励んでいたらこうなった。要するに、俺は大事な時期に世界が狭かったんだ。それに気づいたのはつい最近だけどな」
健「…」
村「…」
健「あの…」
村「なんだ…」
健「学校って…どちらですか?」
村「言いたくない」
健「!!!そこまで言っといて!!!気になるじゃないですか!」
村「だから、お前が気になるかどうかは相手には関係ねぇんだよ。聞いたらなんでも教えてもらえるって考えだからなんでもかんでも騙されるんだ。馬鹿」
健「でもぉ…大学くらいぃ、いいじゃないですかぁ…」
村「……ノウケイ大だ」
健「え!!!ノウケイ!!?ノウサギ経済大学ですか!?え!!!先輩!?」
村「!?」
健「師匠!もう師匠は師匠です!先輩なんですから!よろしくおねがいします!!!」
———
——
—
01:40 デニーズ勝どき店
店「いらっしゃいませデニーズにようこそ!何名さまでしょうか!」
死「イラッシャイマシタ」
熟「3人ね。あの席がいいわ」
店「はいどうぞ!」
しずしず
熟「はー、おつかれさまでした。ちょっと伝票整理しちゃうけど、ごめんね」
美「いえ、あたしこそ、なんかすみません。遠くに住んでて…」
熟「いいのいいの。今日は東宮さんが久しぶりに来てくれたから、閉店時間に関係なくゆっくりしてもらいたかったし、私のマンションも使ってない部屋あるんだから、気にしないでね」
死「スミマセン…」
熟「ガミちゃんはリビングね」
死「ハイ…」
美「でも、すごいですね。まだお若いのに、ご自分でこんな都会にマンションなんて」
熟「そんなことないのよー。たまたま抽選に当たったの。さっきの東宮さんとは別のお客さんなんだけど、2011年の夏ごろかしら、『いま買え』って言ってくれた方がいてね。ちょうど震災の後だったから私も心配だったんだけど、いつもお世話になってる方だし、抽選だけでもって思ったらたまたま当たったの」
死「イイナー」
美「抽選に当たってもおかねがないと買えないんじゃないですか?」
熟「うん。だから頭金だけはなんとか自分で用意して、あとはね、ほら、ウチのお客さんってお金貸してくれるお仕事の方もいっぱいいらっしゃるから、勉強させてもらうついでにお世話になってるのよ」
死「オセワニナリタイワー」
美「…」
熟「さ、何食べる?なんでも好きなもの頼んでね」
死「ウェーイ!!!」
美「あ、ありとうございます」
死「スイマセーン」
店「はいただいま!」
死「ナマハムサラダ、アボカドハンバーグ、ビビンバーグ、ペンネグラタン、フレンチトースト…」
美「…」
熟「美琴ちゃんは?」
美「あたしは…おろしハンバーグいただきます…」
熟「はい♪」
—
美「あの…」
熟「なぁに?」
美「ママさんはきれいだし…、とっても頭もよくって、こんな都会にマンションも持ってて、毎日好きな時間にハンバーグを食べることができて、ほんとにステキで憧れます…」
熟「ありがと♪」
美「…あたし…ママさんに聞きたいことがあるんです」
熟「なぁに?」
美「あたし…子供の頃から勉強すっごく頑張ってきて、田舎では成績もよくって、順調に東京のいい大学に入ったんですけど、実はこの間、内定の取り消しにあったんです」
熟「うん」
美「…ごめんなさい。ウソついてて…」
熟「いいのよー♪なんとなくわかるもの」
美「わかるん…ですか?」
熟「ううん、内定の取り消しとかはわからないけど、誰にも言えないことを我慢している人は見てたらわかるの。私の仕事って、そういう誰にも言えないことを言わせないようにしながらリラックスさせてあげることだから、美琴ちゃんみたいに正直な子が悩んでたらすぐわかっちゃうのよ」
死「スゲー」
美「ありがとう…ございます…」
熟「でもね、わざわざ聞いたりしないのは、別にやさしさってわけじゃないの」
死「オ…?」
美「どうしてですか?」
熟「たいしたことじゃないからなの」
美「たいしたこと…じゃない…」
熟「そう。いままでの美琴ちゃんは順調に来たから、はじめて予定が狂ってびっくりしたかもしれないけど、予定ってね、必ず狂うものなの。みんな予定が狂わないようにがんばって生きてるけど、予定が狂わないように生きることのほうがほんとはずっと健康に悪いのよ」
美「けんこう…ですか…?」
熟「そう。健康。血圧とかそういうのじゃなくてね、楽しそうに笑ってたりすること。私の仕事は予定どおりに行くことのほうが少ないでしょ、でも予定って狂うもんだと思うようになったら『次はどんなことが起きるかなーっ』て楽しみになってきちゃうのよ♪」
死「ウツワデケェ…」
美「あたしに…そんなことできるんでしょうか」
熟「向き不向きもあるからねぇ…でも美琴ちゃんもせっかくスタートラインに立ったんだから、楽しめるうちはこの期間を楽しんでもいいんじゃないかしら。この仕事してたらほんっとにいろんな世界が見えるから、それから考えてもちっとも遅くないと思うわ♪」
美「…わかりました。もうひとつだけいいですか?」
熟「どうぞ♪」
美「あや…、東宮さんにちゃんと送ってもらってますかね…」
熟「どうかしらねー♪あの二人お似合いだし、東宮さんも優しい方だから心配はないと思うわよ。でもチューくらいしちゃうかしら♪」
死「キャー!!!」
美「…」
店「いろいろおまたせしましたー!」
死「ウェーイ!!!」
次号へつづく
【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。
Twitterアカウント
https://twitter.com/daiokawa
2011年創刊メルマガ《頻繁》
http://www.mag2.com/m/0001289496.html
「大井戸塾」
http://hilltop.academy/
井戸実氏とともに運営している起業塾
〈イラスト/松原ひろみ〉
『逆境エブリデイ』 総移動距離96,000キロメートル! 大川弘一がフルスピードで駆け抜けた400日間全記録 |
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