「僕は基本的にあらゆる自粛に反対します」――鴻上尚史、熊本地震に対して
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
その昔、ラジオのチャリティー番組で電話受けをしたことがあります。そのラジオ局で番組を持っていて、「どうしてもやってくれ」と頼まれたのです。番組自体への出演時間はほんの数分で、その後、2時間ぐらいリスナーからかかってくる電話を取りました。
リスナーと会話しながら、どれぐらい募金したとか、不幸なのに頑張っている人を知っているとか、番組で使えそうな話があればディレクターに報告するのです。
番組は、チャリティーが目的でしたが、タレントさん達が楽しく盛り上がっていました。
もう30年近く前のことですが、忘れられない電話があります。それは、不機嫌な女性の声でした。「チャリティーなのに騒いでいるのがとても不快。気分が悪い。なんなの」といきなり言われました。僕はドキドキしながら、とにかく謝りました。電話の人は、「チャリティーなんだから、ちゃんと番組の趣旨を理解して、もっと真面目に放送すべきだ」と繰り返して、電話を切りました。
僕は二十代の真ん中で、その電話をどう受け止めていいのか分からず、誰にも言わないで仕事を終えました。
明石家さんまさんが、九州の地震に関して、芸人として苦悩しているというニュースが流れました。
さんまさんは、「こういうときにお笑い芸人っていうのは困る」とラジオで語ったそうです。もともと「苦しんでる人たちが俺のテレビを見て、ちょっとでも笑っていただければ」「落ち込んでる人を助けたい」という思いも抱えてお笑いの世界に入ってきたが、「ホンマに落ち込んでる人に対して、笑いは必要なのか」という壁にぶつかるとして、「(芸人は)不幸な商売やなと思う」と持論を述べたのです。
これに対して、ネットの反応は、賛否両論のようですが、ヤフーニュースに載ったサンケイスポーツの記事はひどかった。否定の意見として、「こんな時にお笑いなんて不要なんだよ。くだらない芸能人の話よりも、楽しくて愉快な笑いは自然と出てくるもの」。ネットにこの書き込みがあったのでしょうが、あったから紹介すればいいというのなら、『サンケイスポーツ』、そして『Yahoo!ニュース』というクオリティは保証できなくなります。
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