ザ・グラジエーターのスウィート・ハート物語――フミ斎藤のプロレス読本#091【Tokyoガイジン編エピソード01】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
恋人と手をつないで歩くこと。ふたりで公園なんか散歩しちゃうこと。映画館の座席で肩なんか組んじゃって、おもしろい場面になると声を出していっしょに笑ったりすること。
恥ずかしがったり、はにかんだり、身構えたりせず、こういうことがごく自然にできたら、その人たちの感性はとってもスウィートだ。
やさしい気持ちになれたときは、それをちゃんと相手に伝えたほうがいい。もちろん、相手の気持ちも知っておきたい。ふたりが同じ想いを共有できたとしたら、やっぱりそれがいちばんいい。
まるで“ジュニア小説”のようなおなはしだけれど、これはごくこぐベーシックな心のレイアウトなのだ。
そこで、ザ・グラジエーターである。グラジエーターはFMW(フロンティア・マーシャルアーツ・レスリング)がこしらえた和製英語のようなリングネームで、ほんとうの名前はマイク・アルフォンソ。FMWのレギュラーになるまえは、フロリダのインディペンデント団体でマイク・アッサムと名乗っていた。
なにかアッサムawesome(ものすごい、すさまじい、おそろしい、とてもいい)な呼び名はないかなあと考えていたら、師匠のスティーブ・カーンからそのものずばりのリングネームをつけられた。
アイクにははじめからスウィート・ハートがいた。16歳のころからお付き合いをしていて、やっと1年半まえに結婚したばかりのデリーサさんだ。地元タンパのキング・ハイスクールの同級生で、高校を卒業するときには、ふたりでおめかししてプロムのダンスに出かけた。よくケンカもするけれど、決定的にこじれてしまうようなケンカをしたことはない。
ハイスクールのクラスメート同士の仲よしカップルだったら、いつかはそうなれたらいいだろうな、とだれもが思い描くようなプロセスでふたりは結ばれた。地元のガールフレンドと結婚するなんて田舎くさいといえば田舎くさいかもしれないし、いかにも小市民的といえばそういうことにもなるのだろう。でも、初心を貫くのはたいへんだ。
プロレスラーになりたてのころのマイクはほんとうに貧乏だった。1試合のファイトマネーがたった25ドルなんてこともよくあった。アルバイトをしなければ生活できなかった。
FMWにブッキングされて定期的に日本のリングに上がるようになってからは、どうにかプロレスだけでやっていけるようになった。
日本に行くたびにマイクは体じゅう傷だらけになって帰ってくるがけれど、タンパにいるあいだはいつもいっしょにいられるから、デリーサさんとしてはマイクがFMWだけでプロレスをやっていてくれたほうがいいし、いまのところはこのままの生活パターンでいい。
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