類は友を呼ぶフィラデルフィアのECWアリーナ――フミ斎藤のプロレス読本#116【ECW編エピソード08】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
ほんとうはECWアリーナなんて名の建物はこの世にない。ダウンタウン・フィラデルフィア。インターステート76号線沿いのウェアハウス(倉庫)ばかり建ち並ぶひなびたストリートの角にあるグレーの色の貸しホール。
ついこのあいだまでは近所のおじいちゃん、おばあちゃんたちがビンゴ・ゲームやカード・ゲームをしに来たりする横町の集会場だった。
いまは表玄関のガラスのドアのすぐ上に、ごく控えめに“ECWアリーナ”という看板がかかっている。
いつのまにかホールのなかはこぢんまりとしたアリーナに姿を変えていた。それほど広くないフロアのまんなかにリングが置かれていて、オーディエンス=観客のアテンション、視線がリングに集中するようなレイアウトになっている。
木製のブリーチャー(ヒナ壇)は、もともとこのビル内の倉庫に放置されていたものなのだという。リングの語源は“輪”“円形”である。
ポール・ヘイメンは、だいたいどんな場面でもいい出しっぺである。悪党マネジャーだったころのリングネームはポール・E・デンジャラスリー。ニューヨーク・ニューヨーク育ちのアッパー・ミドルクラス・ジューイッシュが生まれて初めてプロレスと接したのは5歳のときだった。
プロレスラーになるよりもプロレスそのものをこしらえてみたい、と少年のころからずっと考えていた。
マネジャー時代にすれちがったプロモーターたち、エグゼクティブを称する背広組の輩はバカばっかりだった。どうやったらプロレスがもっとおもしろくなるかなんて考えもしない連中の集まりだった。
それは彼らの多くがオトナになってからプロレスと出逢ったからなのだ、とポール・Eは考える。
プロレスのセオリーのようなものが頭に入っていれば、身のまわりで起こるありとあらゆるできごと、事件は解決できる。人間のやることにはフォール勝ちも両者リングアウトも反則負けも時間切れ引き分けも全部、ちゃんと用意されている。
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