乾杯のワンシーンはケイコのウィンクから――フミ斎藤のプロレス読本#138[ガールズはガールズ編エピソード8]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
映画のワンシーンみたいな光景だった。人の波が消え、静寂を取り戻した夜のダウンタウン。ビルの森は、明かりを消して眠りについている。
背の高い街灯が乾いたストリートをほのかに照らし、信号だけが時間どおりにグリーンになったりレッドになったりをくり返している。時どき吹いてくる風が冷たい。
1ブロックくらい向こうから3人のジャパニーズが肩を並べて歩いてくるのがみえた。みんな、上着のポケットに両手を突っ込んで、吐く息が白い。
まんなかを歩いているのがブル中野で、右と左にいるのが西村修と新崎人生。アメリカで生活しているときのブル様からは“様”を消しておいたほうがいいかもしれない。
ブルさんはケイコ・ナカノで、西村はオサム・ニシムーラ、新崎はハクーシHakushiだ。3人ともニューヨーク・ニューヨークで暮らしている。
すっかり静まり返ったダウンタウンの一角では“レッスルマニア11”の打ち上げパーティーがはじまろうとしていた。
ケイコとハクーシは、WWEのファン・フェスティバルでサイン会の仕事があったため3日まえからハートフォードに滞在していた。ニシムーラは、マンハッタンからグレイハウンド・バスに乗ってぶらっと試合だけを観にきた。
パーティーの会場はグッドウィン・ホテルのボウルルーム。ケイコとハクーシとニシムーラは、シェラトン・ホテルのロビーで“ヒットマン”ブレット・ハート、レーザー・ラモン(スコット・ホール)、123・キッド(ショーン・ウォルトマン)と合流した。
大きなイベントのあとのパーティーだからヒットマンもキッドもちゃんとした黒のジャケットを着用している。ジャパニーズの3人はどちらかといえばふだん着だ。
くっきりとメイクをして髪の毛を逆立ててリングに立ったときのブル中野は堂々としていて肝がすわった大人物だけれど、すっぴんのケイコ・ナカノは、なにをみてもすごい、すごいと素直に感激してしまう、ちょっと頼りないところのある27歳の日本人女性。いつもウエストポーチをおなかに巻いている。
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