北斗晶の「このトシだもん、恋をしたっておかしくないじゃん」――フミ斎藤のプロレス読本#141[ガールズはガールズ編エピソード11]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
さすがの北斗晶も、こんどばかりは青くなった。フィアンセになったばかりの佐々木健介が電話の向こう側で「東スポが来る」と低い声でつぶやいた。
ふたりの婚約がバレてしまったことだけはたしかなようだった。東京スポーツ新聞はなにがなんでも“北斗・健介、婚約!”のニュースをすっぱ抜くつもりだった。
その約束をしてから2週間しかたっていないのに。もうそれが自分たちだけのことではなくなっていた。
駅で売っているタブロイド新聞のフロントページに北斗と健介のツーショットの写真が載ったとたん、北斗はありとあらゆる雑音のなかに放り出された。
よっぽど仲のいい友だちにしか番号を教えていなかったはずなのに、自宅の留守電にも携帯にもひっきりなしに電話がかかってくる。だいたい、まだだれにもなんにも伝えていないのに、このはなしがひとり歩きしはじめているのがまずかった。
もちろん、ふたりはいちばんいいタイミングで、いちばんハッピーなお知らせができることを望んでいた。健介は、そこで勝っても負けても、8月の『G1クライマックス』が終わるまではこのことについてはなにもしゃべらないでおこうと考えていた。
北斗だって本格的なリング復帰はこれからだ。ほんとうだったら、婚約発表の記者会見なんてもっともっとずっとあとにするつもりだった。
計画が狂ったときは計画が狂ったなりに最善のオルタナティブ(代案)をひねり出さなくてはならない。
北斗は、まず全日本女子プロレスの事務所に出向いていって「アタシをクビにしてください」と申し出た。引退だ、やっぱり撤回だ、とやったあとで、こんどは結婚します、ではいくら北斗でもわがままがすぎるというやつだ。
それに、会社サイドと話し合いの場を持ってしまったら、こんどこそリングに上がるチャンスを失ってしまうかもしれない。なんでもかんでも思ったことを思ったとおりに行動に移せなかったら北斗晶は北斗晶でなくなる。
健介からの求婚は、はじめのうちは「はあ?」という感じだった。いきなり「ウチに遊びに来い」といわれ、突然「お前はオレの嫁さんだ」といわれた北斗は、頭のなかの情報を整理するのにまる3日の時間を費やした。
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