レジーねえさんは“アース・チャイルドEarth Child”――フミ斎藤のプロレス読本#142[ガールズはガールズ編エピソード12]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
レジー・ベネットがぼくの携帯電話の留守録に残したメッセージは「4時に迎えに来てくれ」だった。
夕方の4時じゃなくて、午前4時である。待ち合わせの場所は六本木の“ハンバーガー・イン”と“びっくり寿司”のあいだのゆるい坂道を下りきったところの軽トラックのラーメン屋さんが停まっているあたり。
金曜の夜(というよりも土曜の朝)だから、こんな時間でもいつもよりたくさんの人が出ている。レジーねえさんはクラブ“ガスパニックGAS PANIC”の階段に腰かけてほおづえをついていた。
巡回ルートその(1)は、天現寺交差点のすぐそばのとある古びたマンションの一室。もうすぐ“国”に帰ってしまうトーキョー・ガイジンの知り合いから大型冷蔵庫、日本人形、バイク用のヘルメット、アコースティック・ギター、その他もろもろの日用雑貨品をもらいにいくのだという。
こんな時間にこんなところで大きな荷物を自動車に積み込んでいたりしたら、まるでドロボーみたいだ。レジーねえさんの友人のリーさんは、フツーの日のフツーの時間みたいな顔でアパートメントのドアを開けてくれた。
トーキョー・ガイジンは、この街を通過していく人びとである。みんななんとなくここにスリップ・インしてきて、地球の時間軸とはあまり関係ないような時間の過ごし方をして、またスリップ・アウトしていく。
バックパックひとつで海を渡ってきてそのままずっとこの空気のなかにいついちゃう流浪の民みたいなタイプもいれば、はじめから出稼ぎ目的でトーキョーという空間に入ってきて、90日サイクルで成田と“某国”を行ったり来たりしている輩もいる。
レジーねえさんは、いつのまにかトーキョー・ガイジンの古株ということになっていた。通過していく人びとは、通過していく人びとのなかで通過することのない時間をシェア(共有)するものだという。
ふとした出逢い。どうでもいい遭遇。でも、アクシデントにより邂逅(かいこう)なんてこの世にはない。レジーねえさんは“偶然”を信じない。
江戸川のアルシオン本部道場までは首都高速をきちんと走っていくのがいちばん速い。力持ちのレジーねえさんは、2ドアの大きな冷蔵庫をひとりで持ち上げて、ポイッとSUWの後部座席に放り込んだ。
ガラスの人形ケースは、壊れると困るからひざの上にのっけていくつもりらしい。“7”(首都高7号・小松川線)の標識を追いかけながら迷路のような高速を右方向、右方向に進んでいくと、だいたい20分くらいで一之江ランプにたどり着く。
1
2
※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ