“リングス・バカ一代”前田日明のジェネシスな時間――フミ斎藤のプロレス読本#153[前田日明編・前編]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
深紅のブレザーを身にまとった前田日明は、審議委員としてリングサイドのかぶりつきに腰をおろしていた。
試合開始まえのあいさつは「ご来場、心より感謝申し上げます。心よりのご声援、よろしくお願いします」だった。
リングスが後楽園ホールで試合をするのは約3年ぶりのことだ。大会名“BATTLE GENESIS”は闘いの起源、闘いの発生というコンセプトを指している。
リング上では田村潔司が客席の四方に向かって深ぶかと頭を下げていた。礼が終わると、田村も観客もここで大きく息を吸い込んだ。後楽園ホールが深呼吸をした。
成瀬昌由(なるせ・まさゆき)が掌底とバックハンド・ブローの連打でオランダのヴァレンタイン・オーフレイムを戦意喪失のTKOで退けた。
アムステルダムの“フリーファイト”の大会ではとことんマナーの悪い闘いっぷりで成瀬を潰しにかかったオーフレイムが、こんどはあっさりと勝負をあきらめて赤コーナーに逃げ帰った。成瀬は気持ちで闘い、気持ちで勝った。
山本宜久(やまもと・よしひさ)対高阪剛(こうさか・つよし)の一戦は、リングスという格闘空間のもっとも研ぎ澄まされた領域があますところなくディスプレーされた30分間だった。
このふたりの動きをみていると、リングスがどんなふうに進化の過程をたどってきたかがはっきりとわかる。ジェネシスgenesisとは起源、発生、創生、(生成の)由来、そして旧約聖書の創世期。
山本と高坂の闘いには、まったく新しいジャンルの起源としてのたたずまいがあった。
グラウンドでの関節技の攻防がまったくのオリジナルのスタイルになっている。サブミッションとは関節を曲がらない方向に折り曲げる運動で、ディフェンスはそれを曲がる方向に戻す動作である。
ロープ・エスケープは、柔道でいうところの“技あり”のようなもので、これが2回でダウン1回に換算される。
ポイント制の勝負事だから、むやみにサードロープをつかむことはできない。逃げるよりも、さばくこと。これがリングスのマット・レスリングの基本だ。
リングスが広い定義での“プロレスの集合”に属するかどうかは、もはやひと昔まえの議論である。山本、高阪、成瀬、そして田村はリングス・ジャパンがクリエイトしたプロファイターたち。前田日明は前田日明。リングスはリングスである。
だから、それが同じ3本ロープの四角いリングでおこなわれているなにかだとしても、ファイティング・ネットワーク・リングスのロゴがついていないリングで起こっていることは遠い世界のできごとでしかない。
“第5試合”という名のメインイベントは、30分タイムアップの消耗戦の末、高阪が判定で山本を下した。
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