W杯日本×コロンビア戦 現地レポ――「サランスクの奇跡」そして我らは人気者となった
6月19日、この日は日本サポーターにとって忘れられない日になった。とくに宿も無いサランスクにやってきて、あの光景を目にした人々には。
朝から灼けるような暑さ、そして乾燥。正直モスクワより暑い気温となったこの日、記者は4年前の光景を思い出していた。そう1−4でコロンビアに歴史的大敗を喫し、W杯を去ったブラジル内陸の街・クイアバ。洗濯したジーンズが2時間で乾くほどカラッカラで、宿は少なく高騰化、露頭に迷った日本人サポーターはスタジアムで強烈な光景を見せつけられ、肩を落として帰った。
「ネクスト!」。あのときも街を“制圧”していたコロンビア人の何人かにそう言って肩を叩かれた。「ユニフォーム交換して」とその3倍くらいの連中が言ってきたのだけど。今まさに自分が、コロンビア人と握手をし、「ネクストゲーム!」と気持ちよく言える日が来るとは……。
試合開始4時間前に、昨日と同じ、教会の広場に出ると旗を掲げ、おそろいのコールを叫び、隣のスーパーで買ったビールをがぶ飲みする大勢の彼らがいた。
日本人サポーターはモスクワから夜行列車で10時間揺られ、この日の朝、サランスクに入ったと聞いていたがそれほど数は見られなかった。
隣のスーパーでペットボトル入りのビールを発見、720mlで60ルーブル(120円)だから恐れ入る。レジで並んでいたコロンビア人が瓶入りのコロナビールの購入を断られていた。なるほど乱闘になったとき凶器化するのを防ぐためだろう。
広場に座ってビールを飲んでいると、やはりコロンビア人の60代くらいのオッサン連中に「今日のスコアは何点?」と聞かれる。彼らは「3-0」。いささか辟易しているので「そうだね。もし、日本が勝つなら0-1かな」と答える。挨拶代わりで悪気はないのはわかっているが、彼らの嬉しそうな顔をみるとちょっとイラっとする。
広場を出て、昨日夜拝んだスタジアムへ向かったとき、重大なことに気づいた。暗闇で青く光っていた昨晩のスタジアムはW杯のスタジアムではなかった。その角をちょうど曲がった遥か向こうに、人口30万人の街が威信を持って新設した「モルドヴィア・アリーナ」があった。
角を曲がった瞬間、戦慄した。スタジアムまでおよそ1kmの一本道がすべて黄色で埋め尽くされていたのだ。断片でしか見えてなかったコロンビアサポーターの全容が明らかになり、少し鳥肌が立った。果たして日本人はどれくらいいるのだろうか?
太鼓、笛、そしてコール。自然発生的に歌われる「チャント」(サッカーの応援歌やコール)には聞いたことのあるものが多い。Jリーグで歌われているこれらの歌は、海外からもってきたものが多い。そう言えば、昨日、コロンビア人でオーストラリア在住、日本にも何度か旅行に行ったことがあるという女性から「日本のチャントを教えて、明日一緒に歌ってみたいから」と言われビールを奢られた。
いくつかを実際に歌って教えると怪訝な顔をされた。「イタリア語とかスペイン語が入っているの!? どうして日本語で歌わないの?」と聞かれ返答に窮した。「日本のサッカーはプロになってまだ25年で子供なんだ。だから海外の素晴らしい歌を借りているんだよ」と答えると、腑に落ちない表情。でも彼女は一生懸命覚えてくれて「明日、必ず歌う」と言っていたが、ゲームの展開的に気持ちよく歌ってくれただろうか。
日よけが一切ない一本道を歩くだに、倒れそうになる。うだるような暑さ、この時点で正直「番狂わせが起きたらいいなぁ」といった気分だった。クイアバでも同様の気持ちだったのにすぐに気づいたが。
川沿いに建てられた、巨大なスタジアムは美しかった。道中、案内の地元の女のコたちが、ハイタッチで迎えてくれている。スタジアム横の広場には屋台が出ており、なぜかAKB48の曲がガンガンかかっていた。これも地元の人のおもてなしの一環なのだろうか。
厳重なセキュリティチェックを何度もくぐり、ようやくスタジアム内に。緑のピッチを見た瞬間は高揚感に包まれる。記者の席は日本人サポーターの対面のゴール裏だった。当然ながら、周りはコロンビア人だらけ。隣がイギリス人男性だったのが救いか。
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