ダンボールを収集するために大手広告代理店を辞めた“ダンボールアーティスト”
世の中には、いろんなコレクターがいる。島津冬樹(31歳)さん。自身を「ある意味、ダンボールおじさん」という彼もまた、対象に夢中となる「永遠の少年」の一人だ。
「バナナが大好きで、バナナのダンボールを集めにフィリピンに行ったんです。でも、『ここには、ないよ』って教えられた。ダンボールは輸出用で、国内流通は麻袋だという。ああ、そうか。一番集まるのは、東京の築地市場だと気づかされました」
ダンボール箱は荷物を詰め、運ぶためのもの。使用済みとなったものは廃棄されるか古紙回収にまわされる。しかし、よおーく見ると、凝ったデザインのものがある。カワイイもの、オシャレなものも。そうした捨てられているダンボールを収集するためだけに旅すること8年、世界30か国。「好きだ」という気持ちが昂じ「ダンボールの温かみ」を伝えたいと、財布や名刺入れなどに作り変えるワークショップを続けている。
10月、彼の活動を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』(岡島龍介監督)の試写会を兼ねたワークショップがあるというので原宿の会場を覗いてみた。
島津さんに「愛嬌」を感じるのは、遠路フィリピンまで出かけていこうというのに、ろくに下調べをしない。さらに大失敗に落ち込むことなく、現地ではバナナを運ぶには麻袋を利用していると知り、「大発見」とポジティブにとらえる。行ってやろう。見てやろう。東方を目指したマルコポーロっぽい。
さらに無鉄砲なことに、新卒入社した大手広告代理店を3年半で退職している。理由は「ダンボールに時間を割きたい」。
は? 順調に勤めていたら今頃、年収1000万円の職場だよ。モッタイなくないか?
「ああ、でも。入社するときに、辞めることは決めていましたから。不安? うーん……。このまま収入が増え、立場も上になって辞められなくなる。そのほうが不安でした」という島津さん。3年前に退職した後は、フリーでデザインの仕事をしながら「ダンボールアーティスト」として活動し、自身のドキュメンタリー映画をきっかけに忙しそうだ。
10月、東京・原宿でのCartonワークショップの参加者は20人弱。島津さんが収集してきたダンボールを床に並べ、参加者は気に入ったデザインのものを選び、名刺入れをつくる。
4人掛けのテーブルには木工ボンド、霧吹き、カッターなどの道具を配置ずみだ。目をひいたのは、プラスチックの型枠。ダンボールの上に載せ、鉛筆でラインをとりカッターで切断する。ン? 折込みなどの指示を書き込んだ文字が、微妙に違う。
「そうです。これも一つずつ僕が作っています」
全部「自作」といえば、資料や資材を詰め込んだ頑丈そうな輸送ケースもダンボール製だった。
にぎやかにダンボール選びが終わると、「やきそば」や「麒麟」などの絵柄のどの部分をどう使うか。型枠をあて思案する。
形取りが決まったら、ダンボールの裏側に水を吹きかけ、フヤけさせ、毟り取るように裏紙を剥がす。そうすると一枚の革のようになる。剥がされた裏紙がクズが脇にたまっていく。このゴミの山をどうまとめるか。各人ちがっていて、こういうところにも「個性」があらわれるものだ。
凸凹に波立ったダンボールの裏面を定規を使って押しつぶし、平らにナメしたら、いよいよカッターで切る。
線にそって折り曲げ、ボンドで接着したあとは、専用の器具を使ってボタン付け。全工程、約1時間。たまたま隣に座った人に話しかけ、見せ合い、確認する。小学校の図工の時間のよう。みなさん、楽しそうだ。
ヘンな人だったらどうしょう?
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※映画『旅するダンボール』は、12/7(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開されます。
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