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お寺で開催「おじさんたちのファッションショー」に密着! 妻に先立たれた“没イチ”男たちの挑戦

 出演者の控え室に入ったとたん、目が点になった。テレビカメラを向けられる「没イチ・メンズ」たちのドハデなイデタチ。この日、お寺でファッションショーが開催される。彼らはこの衣装で人生初、真紅のランウェイを歩くという。なにものでもない6人が着用しているのは豪華なヴェルサーチだ。
没イチ

楽屋、控室。リハーサルを終えて

「ふだん? 着ませんよ」と男たちが首を振る。「ハデだとは聞いていたけど、まさかこんなに」と笑い声があがる。 「小谷先生が決めたものだから、俺たちは嫌だなんて言えない」 「そう。拒否権ナシです」  6人それぞれに戸惑いを隠せない。衣装を汚してはいけないと各人、普段着に着替えはじめた。テーブルの上には、ビールの空き瓶が。 没イチ「ああ、これ。シラフじゃやれませんから」とメンバーのひとり。 「でも、一杯だけじゃどうにもならない」と別の男性。  平均年齢68歳。未知なる大イベントにドキドキ、ソワソワの真っ只中だった。

お寺の地下で催された“没イチ”メンズショーに密着

 そもそも「没イチ」とは、配偶者に先立たれた人を意味する造語。「バツイチ」があるのだから「没イチ」と名乗ってもいいじゃないと語るのは、「人間科学」が専門の立教セカンドステージ大学講師の小谷みどりさん。  自身も没イチで、7年前に夫が急死した体験を綴った『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』(新潮社)を今秋刊行。ショーに出演する6人は、50歳以上を対象とする大学のゼミ生でもある。  12月9日。東京港区三田の弘法寺の地下ホールで催された「没イチメンズコレクション」。大手自動車メーカーの元エンジニア、現役建築士、元新聞記者などキャリアも歩んできた人生も様々だが、妻に先立たれ「腑抜けになった喪失感」を共有している。  企画者である小谷さんが語る。 「モデルを男性に限定しているのは、女性はとくにこういうことをしなくても、ふだんからオシャレに気をつかってきている。でも、没イチの男性たちはねぇ」  発端は、小谷さんがゼミ生たちと立ち上げた「没イチ会」の今春の会合で、男性メンバーのひとりが「今年はイメージチェンジをしたい」と口にしたことだった。 「男性は会員で6人。みんなまとめてイメージチェンジさせられたら、これは何かの社会提言になるかもしれないと思った」  思い立ったら行動する性分。企画書を持ってアパレル会社やテレビで活躍するスタイリストらに協力を求めたものの、軒並みNO。 「どこでもエエッという顔をされる。世の中の“没イチシニア男性”に対するイメージは最悪なんだというのがよくわかりました」  断られ続けた数は30を超えた。それでもメゲないどころか、逆に闘志がわいたという。 「みんなにクチにしてしまったものだから」  “終活”をテーマにした著書の多い小谷さん。仕事で会う人ごとに、企画について話すうち協力者があらわれた。スタイリスト、メイク、ウォーキングのトレーニング、ダンスの振り付けから照明、舞台監督まで、周りは全員プロ。サラリーマンの何ヶ月分にあたる費用は『没イチ』の印税をあてるという。

会場には家族や友人の姿が

 ショーの本番。客席には、出演者の家族や友人ばかりか、メディアの記者やテレビカメラまで(「報道ステーション」で14日夜放映予定)。みんな口伝らしい。  ショーは2部構成で、第1部はイタリアンカジュアル(協力BLUNERO INTERNATIONAL CO.LTD)。両サイドのパネルスクリーンにモデルのプロフィールとともに、妻との思い出の写真が映し出される。結婚写真のツーショットなどが泣かせる。 佐藤さん まずローリングストーンズの曲に煽られて最初にステージに立ったのは、佐藤勇一さん。没歴10年。建築士として現在も働き続ける。ランナウェイで、娘とふたりの孫娘からブーケを手渡される。 岡庭さん 2番手の岡庭正行さん。没暦3年。長女が、妻のお葬式で担当者をしていた男性と結婚。客席にいる、今春に生まれた初孫に手をふる。  フランク・シナトラの「ニューヨーク・ニューヨーク」に乗り軽快にランウェイを歩くのは、没歴7年の田中嶋忠雄さん。思い出の曲を選んだ演出が、ここに姿のない伴侶と過ごした彼らの時間を想像させる。 「自由な線、自由な色。描いていく、ふたりで……」と歌う松田聖子の「チェリーブラッサム」を選んだのは、庄司信明さんだ。最年少の59歳。没歴8年、妻の入院中は病床でよく聴いていたという。  つづく三橋健一さんは、没歴8年。メンバー最高齢の79歳。「スタンド・バイ・ミー」の曲にリズムをとろうとするも、右手につられて右足が出そうになる。「家事のすべてを妻に任せっきりだったが、いまはひきこもらず、外出することを心がけている」とナレータが紹介する。  トリを飾るのは、妻が好きだったという中島みゆきの「時代」とともに現われた池内章さん。没暦8年。会社から派遣されたタイで、日本語教師をしていた妻と知り合った。パネルに映される、馴れ初めの頃の写真がじつに幸せそうだ。  ピアノ演奏などを挟んだ2部では、一転して大音量のディスコサウンド。ドハデなヴェルサーチに身を包んだ6人が、思いきりダンスしながらのランウェイをゆく。
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リハーサル直後、楽屋裏では…
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