その74　自衛官家族への支援も忘れてはいけない 　今年最後のこの連載は「夢」があるお話をしようと思います。 　自衛官は公務員なので、自衛官の予算やルールを規定している制度や法律の問題への批判が難しい立場にあります。縦型組織のなかで自らが所属する組織を批判すれば立場が悪くなるという危惧もあるでしょう。そのためか、国会議員が自衛官の待遇を改善しようと考え、まず問題点を洗い出したいと尋ねても、率直に話をしてくれない場合が多いようです。 　さる11月12日、防衛省の防衛副大臣室で、筆者が代表を務める「自衛官守る会」のメンバーたちと一緒に山本朋広防衛副大臣に面会いたしました。防衛副大臣も上記の事情はご存知のようで、「私は現場の隊員から話を聞くときは隣にいる鬼軍曹のような上官にしばらくその場から離れてもらって、自由に話をしてもらえる環境を整えて話を聞くようにしています」とおっしゃっていました。 　自衛官に限らず、公務員は国会議員の視察にはピリピリしますから、本音の話を引き出すことはなかなか難しいと言えます。副大臣は私の著作を読んでくださっていて、在任中にこの本のなかにあるような問題を1つでも多く改善したいと頑張ってくださっています。国会議員が真剣に自衛官の待遇改善に取り組んでくれる時代がやっときました！　長いトンネルを抜けたって感じです。でも、これからが正念場ですよー。 　しかし、自衛隊内部にまだまだ本音で政治家に問題を伝えることを許さない空気があることは否めません。改善のために意見を言う者を不満分子と捉え、叱責する上官もいます。その両派がせめぎ合っているようですから、実情を素直に具体的に教えてくれる人はまだまだ貴重です。 　先日、12月10日の第二回「自衛官の待遇改善を考える会」で、元防衛政務官の鈴木貴子議員がこうおっしゃっていました。 「公務員の住宅は一律横並びで4階・5階建てでもエレベーターなしで、5階でもせっせせっせと階段を上らないといけませんでした。でも、おかげさまで今年の春に法令の一部を変えることができました。4階建てでもエレベーターが設置できるようになりました。今、北海道でつくっている官舎では、１Fが保育園、2～4Fが官舎というものを建設しています」 　仮に「5階でもエレベーターがない官舎」に一気にエレベーターが付いて保育園も併設されるとなると、モチベーションは上がりますよね。やっと問題に気づいて法令を変える動きができてきたことを心から嬉しく思います。 　さて、これまで自衛隊の処遇問題がなかなか国会議員に知られなかったもう一つの理由に、自衛官ならではの美しい忍耐強さがあると感じています。国会議員が「エレベーターがなくて大変じゃないですか？」と自衛官に尋ねても「自分たちは鍛えているから大丈夫です」という返事が返ってくるのだそうです。それを聞けば「そうか、問題はないのか」と言葉通りに捉えるしかないわけです。 　でも、自衛官の家族にとってはどうでしょうか？　小さなお子さんを持つお母さんが毎日子供を抱えながらベビーカーを持って5階まで上り下りすることを考えてみてください。さぞかし大変だと思います。ご高齢の両親がいる場合も同様です。 　鈴木貴子議員は「自衛官だけでなく、自衛官家族の問題も忘れてはならない視点だと知ってもらいたい」と訴えていました。自衛官は国家公務員のなかでも人口の少ない地域に赴任することが多い職種です。自衛官の赴任により地方都市に人口が増えることを考えると、自衛官とその家族の環境を整備することは、少子高齢化、地方活性化のためにもなる施策だと思います。もちろん、自衛官不足の問題にもストレートに効いてくるはずです。 　国会議員との意見交換でも「風呂がカチカチ鳴らすバランス窯で驚いた」とか「湯沸かし器もない官舎がある」などという話題が出ていて、国会議員が視察したうえで具体的に現状を改善したいと語る様子を目の当たりにしました。 　現役自衛官の皆さん、もう隠す必要はないです。国会議員さんたちに現状をきちんと知っていただきましょう。一度にすべてが改善されるわけではないでしょうが、先生方は一つずつでも改善しようと真剣に取り組んでくださっています。 　このモデルケースのような「保育園付き官舎」を全国展開しようという動きもあるようです。自衛官になりたい・自衛官を続けたい人が増える施策ですね。