オバマ前大統領、マウンティング「する」ではなく「させてあげる」交渉術
日本で市民権を得て久しい「マウンティング」という言葉。「マウント」とも略称され、多くの場合、職場やコミュニティー等において、相手より上位の立場であることを誇示する意味合いで用いられる言い回しだが、「人類の歴史を振り返って見れば、太古の昔から現在に至るまで、人間のあらゆる行動はマウンティング欲求によって支配されてきた」と、マウンティング研究の第一人者・マウンティングポリス氏は語る。
みなさんこんにちは、マウンティングポリスです。
下手なマウントというのは得てして人を不快にさせ、結局のところ、自分もうまくマウントすることができずにストレスを感じてしまうものです。しかし、今回はマウントを「する」のではなく、マウントを「させてあげる」ことによって、非常に建設的なコミュニケーションを実現することに成功しているナイスマウントな事例をご紹介します。
マウントを「させてあげている」のは、皆さんもご存じ、アメリカ史上初の黒人大統領を務めたバラク・オバマ氏です。
その様子を、2016年に公開されたアメリカの雑誌メディアWIREDでの対談動画「AI(人工知能)の未来 | バラク・オバマ×伊藤穰一| Ep1~Ep7 | WIRED.jp」から引用させていただきます。
※AI(人工知能)の未来 | バラク・オバマ×伊藤穰一 | Ep1 | WIRED.jp 2016/12/14
この動画は、トランプ大統領が誕生する直前のタイミングで、当時の米国大統領であったバラク・オバマ氏がホワイトハウスから自身による最後のメッセージを伝える内容となっています。対談相手としてオバマ氏が指名したのは、MITメディアラボ所長(当時)の伊藤穰一氏。AI(人工知能)をはじめとするテクノロジーが我々の生活に浸透することのメリット・デメリットについて両者が議論を交わすという非常に知的かつ重厚なコンセプトの内容となっております。
演説の名手として知られるオバマ元大統領ですが、実は、彼が卓越した「マウンティング人心掌握術」の使い手であることはそれほど知られてはいません。以下では、この点について、簡単に解説していきたいと思います。
まず、モデレーターを務める人物が冒頭で「今回はおふたりとAIの話題を中心にお話ししたいと思っています」(0:18)と切り出して対談がスタートします。
ここで注目すべきは、上記の発言の直後にオバマ元大統領から発せられる以下の一言です。
「Joiが専門家だから彼に従うよ」(0:21)
「Joi」というのは、伊藤氏の愛称のことです。相手に対する深い配慮を常に念頭に置いたコミュニケーションを心掛けているオバマ大統領は、議論が始まるやいなや、今回の対談相手である伊藤氏のAI(人工知能)に関する専門性を賞賛することによって、本対談が参加者全員にとってマウントフルネスな構成になるように緻密に計算しているのです。
実際、このようなお膳立てがあれば、伊藤氏はより一層自身の専門性を発揮しやすくなりますし、対談自体も有意義なものとなる可能性が高まります。そして、AI(人工知能)に関する自身の見解を述べた後、オバマ氏は以下のような言葉を投げかけることで、伊藤氏のさらなる発言を引き出していくのです。
「Joiはもっと詳しく知ってるよね」(2:51)
そしてこの後、AIに関する議論から派生する形で、映画『スタートレック』に対談のトピックがシフトするのですが、「この映画の中に登場する人物の人間味が好きだ」と語る伊藤氏に対して、オバマ氏は「たしかに君の言う通りだ」(3:12)と伊藤氏のコメントを受け止めつつ、さらなる有意義なディスカッションへと対談全体を導いていくのです。
率直に言って、米国大統領から褒められて嬉しくない人はこの世にいないはずです。オバマ元大統領は、相手起点のコミュニケーションの重要性を知り尽くした世界屈指のエリート中のエリートであるだけでなく、優れたマウンティングエクスペリエンスの設計者であると言っても決して言い過ぎではないのかもしれません。
「Joiの言葉を借りれば、メタ・プロブレムもある」(Ep6:3:27)
「だが、Joiは的確でシンプルな指摘をしてくれた」(Ep7:0:34)
(伊藤氏の発言を受けて)「非常に的を射た指摘だし、それはより大きな問題につながる」(Ep7:7:26)
一方、伊藤氏も見事なやり方でオバマ氏に対する敬意を表明しつつ、自論を展開していきます。
「医療とサイバーセキュリティを総合的に見ている大統領の目線は」(Ep3:9:34)
「大統領はオープンデータイニシアチヴを成功させましたが」(Ep4:7:31)
「大統領がおっしゃった通り、時間はあります」(Ep5:5:54)
といった具合です。内容の詳細については実際に動画を見て頂ければと思いますが、オバマ氏に負けず劣らず、伊藤氏も優れたマウンティングリテラシーを備えた桁外れの人物であることが見て取れると思います。
そして、上記の内容を踏まえるとマウントを「する」のではなく「させてあげる」ことによって、多種多様なバックグラウンドを持つ人々と円滑なコミュニケーションを設計するスキルこそが21世紀を生き抜く上で必須の「教養」と言えるのかもしれません。
本連載は、「マウンティングを制する者は人生を制する」というマウンティングポリスの仮説のもと、「誰もが自分らしくマウントを取ることができる豊かな社会の実現」を目指し、我が国におけるマウンティングリテラシー向上の必要性/重要性を訴えるマウンティングポリスが、自身の元に寄せられた様々な人生相談に対して、マウンティングの観点から回答していく企画である。
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相手の専門性を称賛するオバマの逆マウント術
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「人間のあらゆる行動はマウンティング欲求によって支配されている」「マウンティングを制する者は人生を制する」を信条に、世の中に存在する様々なマウンティング事例を収集・分析し、情報発信を行う。ツイッターアカウント@mountingpolice
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