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タクシーの無賃乗車が起こるメカニズム。ドライバーは自腹で泣き寝入り?

タクシーで長距離運転はよくあることなのか?

タクシー 高速道路 2021年1月17日に横浜市から鳥取市まで600km以上にわたりタクシーを使い乗車料金23万6690円を支払わなかったとして、住所、氏名とも不詳の女を詐欺容疑で現行犯逮捕された。  コロナ禍により客減。売上げが悪い中の起死回生の一発。舞い上がる気持ちを抑えながら運転するドライバーの姿が目に浮かぶが、このような途方もない距離の営業はよくある話なのか。  本来、送り先が長距離で高額な場合は、発車前に乗客に支払い方法などを確認する。また、今回のように600kmという距離は法律ではドライバー1人のみでは運転出来ない距離である。長距離バスなどみればわかるようにドライバーが2人のツーマン体制である。他にも法人ドライバーの場合は、労働時間、1日の営業制限距離、疲労も相当であろう。安全のことを考えれば、乗車を受けられないものである。  それに高額な乗車料金は、この女性から回収できるとは限らない。回収出来なかったら場合は、タクシー会社にもよるがほとんどの場合はドライバーが自腹をきることになる。まさに天国から地獄、失意を底に長い帰途につく。ドライバーの落胆も計り知れない。そんなドライバーの心理を弄ぶような犯罪をする輩が後をたたない。

まさかと思う人が無賃乗車

「すみません、今、財布を家から取ってきますので少し待っていただけますか? すぐ戻ってきますので」  そう言うと大学生風の女性が申し訳なさそうに降りて行った。普段ならこのような状況の時には、人質ならぬ鞄やスマホなど物質(ものじち)を車内に置いといてもらうのだが、大学生風の若い女性とあって何の警戒せずに降ろしてしまった。5分、10分、15分と待ってもその女性は戻って来ない。馬鹿正直に30分待った挙句、女性は戻って来なかった。そこで初めて「乗り逃げされた」と感じるほど、無賃乗車をするようには微塵も感じないほどの女性だった。  身なりをきっちりとしたビジネスマン、気の良さそうなおじいちゃん、純粋そうな女の子など周りのドライバーに聞くとまさかと思う無賃乗車犯がいる。人は見かけによらないと言うが、タクシーという仕事をしてそのことをより一層実感する。  鳥取市までのような高額な乗車料金の場合は、さすがに警察に被害を訴えるが、ほとんどのケースが舌打ちして諦めるくらいの金額であることが多い。タクシードライバーにとって時間は貴重だ。警察に被害届を出すとなれば、1、2時間取られてしまう。少しでも長い時間仕事して、少しでも多く稼ぎたいとの思いと「面倒臭いことは御免だ」という思いで無賃乗車の料金を自腹にしてしまう。何のお咎めもなかった無賃乗車犯は味を占め、また同じような犯罪を繰り返し、新たなタクシードライバーが犠牲となる。負の連鎖が始まってしまうのだ。  罪の意識が薄いのか後が絶たないタクシーの無賃乗車は、刑法では、詐欺罪(246条1項、2項)に問われ、罪の重さは、刑法246条1項により10年以下の懲役刑となる。  たとえ、酔っ払っていて支払う意思を見せなかった場合でも、その乗客は現行犯逮捕されることになる。「酔っ払っていて、記憶にありません」などという言い訳は通用するしない。
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無賃乗車と言い切れないことも
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物流ライター。ライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「吾は巷のインタビュアー!」

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