更新日:2021年10月01日 15:00
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<マンガ>”合コン死亡遊戯・前編”「小野寺ずるのド腐れ漫画帝国 in SPA!」~第四十五夜~

小野寺ずるのド腐れ漫画帝国 in SPA!いつまでステイホームを続ければ、私たちは報われるのだろうか。気軽に外出できたころは、ネオン煌めく場所やら、しずかな湖畔の森の影やら、我々には“逃げ場”が存在した。いまや自宅にこもり、自分と向き合うことが増えてしまった……。そんなダメな自分と正面衝突している日々よ。役者・小野寺ずるの漫画&コラムです。

『初めての合コン〜前編〜』

生まれて初めて合コンに行ったのは20歳の夏――。 女子大にいた私はクラスメイトの「合コン行かんか?」の誘いに、「はぁ、まじで?」とLowをキメながらも心は春の到来に強くときめいていた。 女子の美大は過酷な環境だ。 “男性の匂いで生理不順が治る”という噂が拡まれば、内気な男性助手の周りに虫のように女達が群がり鼻息を荒くする。 悲しいくらい男がいない。 「ハーレムじゃん」とお思いかもしれないが、攻撃的なカブトムシの村でたった一本のクヌギとなることを強いられる彼の「早く出てってやる」と暗く燃える瞳を想像してほしい。「生理、早よ来いやぁあ!」「早よぉケチャ○ン!」と、研究室にはそんな叫びが轟いた。仕事上、温和でいなくてはならない大人の礼儀を利用する、お芸術とモラトリアムを振り回す若き女どもの顔と頭はいつも皮脂で輝いていた。 そんな私たちが合コンに行く。 特に胸をときめかせていたのは私だろう。アートを人質に全裸になることばかり考えていた田舎から来た露出狂である私は、恋愛なんぞしたことがなかったからだ。したかったが、できなかった。 コンプレックスだらけの臆病者は、男性とどう接していいかわからずずっとピエロを演じていた。当時から、”ただの変態”として独り相撲の真似事に勤しむ人生だった。しかも、中高時代はモテ男にばかりホレていた。ホレた男がかわいい彼女と下校している後ろを帰り道が同じために、ヒタヒタついて帰らねばならぬ時の気持ちを今も覚えている。 普段は歩くのもしゃべるのもめちゃめちゃ速い私が、カップルが奏でる「下校のワルツ」のテンポに合わせ歩幅を決める夕暮れ時の気持ち。あなたにわかるだろうか。 「私も誰かと恋をしたい」 思春期の激情に対応できず変人を気取るほかなかった私は、ニセモノの変人だった。その軌道修正に失敗し、汚れたダミーと化した現在。今も昔もいつだって安アパートの天井を見つめるしかできていない……。 「合コンで彼氏できたら青春取り戻せるやんけ!!」 気合を入れた。取り戻すしかなかった。 「私はピエロじゃない、女だ!」 しかし、デートもしたことがないダミーピエロには何もかもがわからなかった。 「何を着ていけば……」 「そんなんお気に入りの服着てけばいいじゃん?」 読者さん、侮らないでください。嘘でも変人になりきっていた人間は当たり前が飲み込めない。素敵なファッション誌をめくっても、「モデルが可愛いからうまくいってる」とやっかみ、”格差社会の増長を招く危険書物”と罵倒し言うことを聞かない。 “個性的”に逃げ全身真っ白のジャージばかり着ていた私のクローゼットの不足と言ったらたまらない。さらにそれを援護するのは、強烈なカビ臭さだ。ガラス作家を志す友人の「悪いモノは外から入ってくる。窓を開けてはいけない」という謎の言葉を信じ、一切窓を開けない生活をしていたもんだから、靴には緑のケサラン・パサランが生えていたし、鼻の中に約1000万個あると言われるセンサー・嗅細胞は”慣れ”という名の毒がまわり全て死滅していた。 ……そんな湿地帯でこいつはどこに着陸したと思いますか? 「私という素材を活かすために丈の短い服にしよう!」 ……何が素材ぞ……お前は埋まっとる芋ぞ…… 昔からこいつには根本に不適切な自信がある……きもちがわるい……。 「気合い入れ過ぎるとがっついてるって思われるから、今あるシンプルな服で!」 自意識過剰で横着……。これが私か……。 ふざけてる。服を買いに行け、耳鼻科に行け、換気をしろ、適切な努力をしてくれよ!! 過去の私に言いたい。 「撮影現場でうつむいてる今の私はお前のせいぞ」 ……。 お母さんが買ってくれたユニ◯ロのTシャツとショートパンツ(妙に露出度が高い)で、私は相模大野の駅に降り立った。くしゃくしゃのTシャツには、赤いラメで”Local guide”と書かれていた。4対4(地方案内人含む)の戦いが、ついに始まる……。 (※次週、イケメン医大生チームとバトル) 担当より:世間をすごく恨んでいるのが伝わってきました。
'89年宮城県出身の役者、ド腐れ漫画家。舞台を中心に活躍後、'19年に「まだ結婚できない男」(関西テレビ)で山下香織役、'20年「いいね!光源氏くん」(NHK)で宇都宮亜紀役など、テレビドラマでも活躍の場を広げる。また、個人表現研究所「ZURULABO」を開設し、漫画、エッセイ、ポエムなどを発表。好きな言葉は「百発百中」。 Twiter:@zuruart

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