会社員の給料が上がらない不都合な理由。終身雇用は「保険商品」と同じ
誰だってリスクを取るよりも、安定した人生を歩みたいと思うもの。しかし、そのリスク回避思考が、あなたの給与を上げる妨げとなっている可能性も………。その最たるものが保険であり、「終身雇用という人生の保険に知らぬうちに加入していることに、気が付いていない人が多いのでは」と語るのは、経済評論家の上念司氏。安定を重視する重視する保険思考的な発想のデメリットについて、上念氏が解説する。
(以下は、上念司著『あなたの給料が上がらない不都合な理由』の一部を編集したものです)
投資はしたいけど、元本が減ったらいやだなとか、もしもの時には優先的にお金が返ってきたほうがいいなとか、会社の業績が悪化しても変わらず給料がもらえるほうがいいなとか……。
人間なら誰しも持っている将来への不安。その不安を解消するビジネスが「保険」です。
生命保険は死の恐怖を解消し、損害保険が事故の不安を解消するのと同じく、今見てきた「保険」はお金の不安を解消します。ただ、「保険」といっても、厳密にはいわゆる保険商品ではありません。安心のための保証料と言い換えてもいいです。リスク回避的な行動をする人はこの「保険」に簡単に食いついてしまうのです。
例えば、その究極にあるのが普通預金です。現在、金利はほぼゼロ。現金で置いておくのと全く変わらないのに、2021年末現在、585兆円もの資金が普通預金(日銀資金循環統計では「流動性預金」に分類)として眠っております。もちろん、世の中がデフレであるなら、金利がゼロでも実質的に預金は増えていることになります。
しかし、アベノミクス以降、物価はマイナス圏を脱しました。普通預金に預けておく経済合理性はないように思えますが、やはり将来が不安なのでしょう。確かに、新型コロナのパンデミックで経済の先行きが見通せなくなりました。物価上昇の分だけ預金が目減りしても、それは「保険」を掛けたコストとして許容しているのかもしれません。
ちなみに、日本人の保険好きは異常です。公益財団法人生命保険文化センターの調べによると、2021年度の生命保険の世帯加入率は89.8%(約9割!)に達しているとのこと。
さらに、国民皆保険で公的な高額医療養費助成制度があるにもかかわらず、医療保険がバカ売れしております。同センターの調べで世帯加入率は93.6%に上ります。年間の払込保険料は平均で37.1万円。払い過ぎでしょ? 実際にこれは国際的に見ても極めて高い水準と言えます。少し古い記事ですが引用します。
(以下、引用)
わが国の生命保険・個人年金の世帯普及率は、87.5%(06年)と高い。セールスマンが100軒の家庭を回れば、87軒から「もう入ってます」と言われる計算になる。各家庭が加入している生命保険のほとんどが、死亡があれば遺族に保険金が支払われるという形の死亡保険であること、各人が保険会社との間で契約を取り交わした形の個人契約がほとんどであること、は実感としてわかっていただけるだろう。
これに対し、米国の生命保険(個人年金は含まない)世帯普及率は78%である。個人契約だけに限った場合の普及率は50%であり、団体生命保険への加入が全体としての普及率を底上げしている(リムラ・インターナショナルのデータに基づく)。英国の世帯普及率はさらに低く、約40%である(英国保険協会のデータに基づく)。しかも英国の場合には、生命保険は死亡保険というよりも、貯蓄・投資商品としての色合いが濃い。
【参考:「生命保険好きの国」『ニッセイ基礎研究所』2008年3月4日)】
本当に保険大好きなんですね。だから元本保証も大好きだし、株よりも債券大好きとなるのは当然です。そして、これを働き方に置き換えれば、ハイリスク、ハイリターンな非正規雇用より、安定確実な終身雇用、正社員を好むのもまた当然と言えるでしょう。起業なんてする奴はきっとこの国では頭がおかしい奴だと思われているんでしょうね。
人生の不安を解消するビジネス・保険。そのデメリットは
生命保険に約9割の人が加入。日本人の保険好きは異常!?
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1969年、東京都生まれ。経済評論家。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。リフレ派の論客として、著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中
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