実家暮らしの40歳独身、真面目で不器用な男が壊れる──大杉漣との約束を果たした映画『夜を走る』
劇場公開デビュー作『まだ楽園』(‘06年)で黒沢清をして、“やがてヴェンダースを乗り越え、その真の後継者になるだろう”と言わしめた佐向大が、その予言を確信に押し進めた。
新作『夜を走る』は、前作『教誨師』(‘18年)で製作総指揮・主演を務めた故・大杉漣が、実はそれ以前に佐向と組んで企画していた作品だ。一度は頓挫し、それゆえ約4年という月日によって醸成された、亡き大杉に捧げた本作は、何とも芳醇――いやキレッキレだ!
「ある事件を起こした男2人が、必死で証拠を隠そうとしながら日常を生きていく――。前半は漣さんと企画していた内容とほぼ同じ。でも再び脚本に向かい合った‘19年頃は、社会が閉塞し、政治的にも動脈硬化を起こしているような状況で、そんな鬱屈や抑圧から自由になりたい、どうにかして突破したいという思いが強くなったんです。そこへコロナが起きたことで、それをより強く感じるようになり、後半部分を全部書き換えました」
“被抑圧”を体現するような鉄屑工場に勤める秋本(足立智充)は実家暮らしの40歳、独身、真面目で不器用。日々上司からパワハラまがいの叱責を受けている。秋本を庇う後輩の谷口(玉置玲央)は、妻子はいるが浮気中で、職場でもうまく立ち回っている。
「秋本は、決められた社会規範に則って生きてきた。谷口は“つまらない日常なんか”と好きなように遊んできた。前半は、そんな2人が予期せぬ事態に遭遇し、“どうにかしなきゃ”と言い合いながら、肝心なことをダラダラと後回しにしてしまう道行を描いています。
自分に照らし合わせても、そういう言動ってすごくリアルに感じて。個人レベルでも世界レベルでも、いつかやらなければいけないことを後回しにするから、歪みが生じてしまうことが多々ありますよね。ただこの2人は生じた歪みの後、それまでの立場が逆転していくというか、それぞれ別の次元へと進んでいく。その姿を描きたかった」
リスキーなテーマだが“罪と罰”という視点から僕は描いていない
実家暮らしの40歳独身、真面目で不器用な主人公
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