アルツハイマー型認知症やALS…“治らない病”に有望な治療法が
これだけ医学が発達しても、有効な治療法がない病は多い。アルツハイマー型認知症や、徐々に全身が動かなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)もその例だ。そんな中、注目されているのが幹細胞による再生医療である。
驚異の再生医療』などの著書がある名古屋大学名誉教授・上田実氏は、「培養上清」という技術を使って、これら難治性疾患の治療に挑んでいる。培養上清とは、幹細胞を培養したときにできる培養液の上澄みのことだ。
前編では、培養上清治療によってALS患者の症状が改善した、世界初の研究について上田氏に話してもらった。実は、ALSだけでなく、さまざまな難治性の疾患に対しても、培養上清が有望な治療法となり得るという。
「私たちの研究クループは、有効な治療法がないアルツハイマー型認知症、死亡するリスクの高い劇症肝炎や心筋梗塞などの重篤な病気に対しても、臨床治療を行って、良好な結果を得ています。
また、脳梗塞の後遺症や関節リウマチ、アトピー性皮膚炎など、現状では決定的な治療法に乏しい病気に対しても培養上清治療が有効であることを証明してきました」
と上田氏はさまざまな病気に対する培養上清による治療に手ごたえを感じているという。
培養上清には、幹細胞から培養液にしみ出したサイトカインや成長因子などのタンパク、遺伝子の断片であるエクソソームなど、再生を促進する生理活性物質というものが豊富に含まれている。そのため、ALSのような難病の症状を改善する機能やメカニズムを説明することは簡単ではないが、次の4つの働きが傷ついたり機能を失ったりした組織や臓器を再生していると考えられる。
①壊れてしまった組織や臓器は強い炎症を起こしているが、培養上清にはその炎症を抑える機能がある。
②炎症を抑えて、傷ついた細胞を保護する機能がある。
③壊れたり傷ついたりした組織や臓器に存在する幹細胞に本来備わっている機能を呼び覚ましたり、周りに存在する幹細胞を患部に集めて増殖させる機能によって、それらの幹細胞が健全な細胞をつくり出す。
④新たな血管をつくる機能によって、再生した組織や臓器が機能するために必要不可欠な酸素や栄養素を供給する。
再生医療の第一人者で『
アルツハイマー型認知症にも治療の手ごたえ
医学博士。専門分野は再生医療・顎顔面外科。
1949年生まれ。1982年名古屋大学医学部大学院卒業後、名古屋大学医学部口腔外科学教室入局。同教室講師、助教授を歴任し、1990年よりスウェーデン・イエテボリ大学とスイス・チューリッヒ大学に留学。1994年名古屋大学医学部教授就任、2003年から2008年、東京大学医科学研究所客員教授併任。2011年よりノルウェー・ベルゲン大学客員教授。2015年名古屋大学医学部名誉教授就任。日本再生医療学会顧問、日本炎症再生医学会名誉会員として再生医療の研究と臨床の指導にあたる。株式会社再生医学研究所代表。近著に『改訂版・驚異の再生医療』
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