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NHK『虎に翼』が「“F1層(20~34歳女性)”から支持される」納得の理由。朝ドラでは異例

朝ドラの主な視聴者は50代以上だが…

虎に翼

(C)NHK

 伊藤沙莉(29)がヒロイン役の朝ドラことNHK連続テレビ小説『虎に翼』が相変わらず高い人気を博している。第19回までの平均視聴率は個人、世帯ともに前々作『らんまん』、前作『ブギウギ』を超えている。  性別、世代ごとに細かい数字が出る個人視聴率を調べてみると、目を引くのは若い世代の数字の高さ。昭和期より働く女性が飛躍的に増えたため、朝ドラの主な視聴者は50代以上なのだが、『虎に翼』の場合、全世代の個人視聴率が9.12%なのに対し、F1層(20~34歳の女性)が1.47%ある(ビデオリサーチ調べ関東地区、以下同)。 『らんまん』は個人視聴率8.90%でF1層が1.05%、『ブギウギ』は個人視聴率8.80%でF1層1.02%だったから、『虎に翼』のF1層の数値は両作品の約1.5倍ある(いずれも第11回~14回)。 働く若い世代は録画視聴組が多い。これも『虎に翼』は高い。第2週の録画視聴率の最高値は第9回の4.7%(リアルタイム視聴分を合わせると、13.5%)だった。『らんまん』は第6回の同3.9%(同11.7%)、『ブギウギ』は第7回の同3.7%(同12.2%)だった。  どうして若い世代は『虎に翼』に惹かれるのか? 無声映画風の劇中劇などユニークな演出の数々も理由の1つに違いない。尾野真千子(42)のナレーションが軽妙で愉快なのも魅力だろう。

凝縮した物語を15分間で展開

 物語が進行するテンポは速く、これもドラマを倍速で観る人すらいる若い世代に合っているはず。  第19回が好例だった。伊藤が演じる明律大法学部学生・猪爪寅子とハイキング中に口論し、ケガを負った同級生・花岡悟(岩田剛典)が、入院先の病院を退院する。その直前、寅子への卑劣な仕返しの計画を口にしたところ、やはり同級生の轟太一(戸塚純貴)から「この愚か者!」と罵倒され、張り手を食らった。  級友の手厳しい叱責で目がさめた花岡は、ハイキング中に侮辱した同級生で3児の母親・大庭梅子(平岩紙)に謝罪する。花岡が「こんな人間になるはずじゃなかった」と自らを恥じると、梅子は許し、やさしい言葉を掛けた。  その後、花岡は寅子に仕返しするどころか、好意をほのめかす。花岡は小中学生と同じで、寅子が好きだから、ときに冷たくしていた。第19回はまだ終わらない。寅子の父親で帝都銀行の経理第1課長・直言(岡部たかし)が「共亜紡績事件」で逮捕される。  これらを15分間で見せたのだから、脚本を書いている吉田恵里香氏(36)の筆力には目を見張る。2022年、脚本界の最高峰である向田邦子賞を史上最年少で獲得したのはダテじゃない。
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若い世代を惹きつけるエンパワメントの構図
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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