小林よしのりVSプチ鹿島のトークイベントに潜入!――「フミ斎藤のプロレス講座」第10回【後編】
―[フミ斎藤のプロレス講座]―
小林よしのりさんとプチ鹿島さんのトークイベント『電撃のワンナイトマッチ』を潜入取材してきた。お笑い芸人のプチ鹿島さんがプロレスについて書いた新書『教養としてのプロレス』がプチベストセラーになっている。著者の鹿島さんが「かつてプロレスファンだった」小林よしのりさんを対戦相手に指名してのトーク・ワンナイトマッチが10月6日、東京・渋谷のライブハウスでおこなわれた。
イベント名の『電撃のワンナイトマッチ』は、鹿島さんが高校生のときに体感した藤波辰爾対木村健悟の“電撃のワンナイト・マッチ”(1987年1月14日=東京・後楽園ホール)のオマージュである。
⇒【前編】はコチラ
鹿島「立花隆さんのはなしですけど、プロレスを、品性と知性と感性が同時に低レベルな人たちだけが楽しむもの、どうでもええものと切り捨てたんです。あれは、おそろしかった。徹底的な切り捨て方なんです。立花さんは、これは必要、これは無駄という仕分け方だけをされて生きてきた人だと思うんです。でも、無駄があったっていいんです、無駄があってもいいじゃん、と思いませんか」
小林「プロレスがわからない人って、まあ、それがむずかしいはなしなんだけど、ガチか八百長か、というおはなしになってしまいます。アントニオ猪木対モハメド・アリの試合がありますね。猪木は寝っ転がってばかりいる。あれ(あの作戦)しか使えない。やっぱり、セメントなんですね。見せ物ならば、あんな試合にする必要はない。いままでプロレスを八百長だ、八百長だと言っていた人たちがあの試合を観てしまった。なんなんだこれは、となった。猪木はあんなルールを受け入れて、投げちゃいけない、つかんじゃいけない、というなかで試合を成立させた。それはそこにセメントがあるからなんですね」
鹿島「立花さんは(プロレスとの関係については)ただの通りがかりですね。愛がないだけ。でも、当時の私のコンプレックスはすごかった」
小林「紋切り型にポンッと八百長ってことだけを頭にいれて、品性だ、知性だと。狭いです。ムダなものがあってオーケーです。プロレスを八百長だと言ったら……常人じゃないんですよ、日常にはいない人たちなんですよ、そういう特別な身分というか、そういう人たちがやっているからこそ豊かなんですね。あまり市民社会といっしょだと……」
鹿島「プロレスって、プロレスラーが化けていく瞬間をみることだと思うんですね。小林さんからごらんになって、いまの“過激”ってなんですか?」
小林「いまはだれもが発信できる時代です。つぶやきは全部、たれ流しなんです。ツイッター発信、たれ流し。プライベートなコトバをたれ流す時代。それ自体は悪くない。でも、“私”をみせない人、自分のパフォーマンスだけで訴えること、これはかなり苦しいことです。この時代、それがいちばん“過激”かなと思います」
鹿島「じゃあ、四天王のプロレスですね。新日本の選手たちみたいにメディアを使ったり、たとえば長州がマイクアピールしたりするように、全日本プロレスの選手にはそういう機会があまりなくて、四天王にとってはリングの上しか表現の場がない。だがら、試合がどんどん過激になっていった……、というのを思い出しました」
小林「なにが“過激”なのかというのは時代背景によりますが、ステージの上だけ(が表現の場)というのが、いまいちばん“過激”でしょう。それではおもしろくないかもしれない。話題もないし、刺激もない。なんでも言えるのに、発信しない。だから、言わないことが“過激”。いまのヘイトスピーチなんて、なんでも言っちゃうことの典型。ネット上でもどこでも、なんでも言っちゃう、すぐ言っちゃう。たれ流しの時代が来ちゃったんです。そんなときにパフォーマンスだけで(表現すること)がいちばん“過激”でしょう」
鹿島「最近、DVDが出たばかりなので、猪木―アリ戦をじっくり観なおしましたけど、まったく退屈じゃなかったです」
小林「ワシはデストロイヤー、フレッド・ブラッシーあたりまでは熱中して観ていたが、しばらく離れていて、アントニオ猪木対ストロング小林のときに戻ってきた。どっちが強いのか。こんなの、やっていいのかな。どういうつもりなんだろう。疑惑。興味。それから、タイガー・ジェット・シンが新宿の伊勢丹デパートの前で猪木を襲った事件」
鹿島「伊勢丹デパートの前で起きた事件なのに東京スポーツにはそれがちゃんと載ってて。警察が被害届けを出しますかと聞いたら、猪木は『いや、レスラーはリングで決着をつける』なんて言って。それがまたすごく怪しくて。ほんとうに悩みました」
小林「猪木対ハルク・ホーガン、IWGP決勝戦も伝説になった」
鹿島「はい、IWGPは構想から実現までに3年かかった。すごい……」
小林「その決勝戦でね、(大方の予想に反して猪木が負けたから)逆に伝説になった。伝説ですよ、みんなを驚かせた、ひとりで。舌をベロッと出して。どうしてそんなこと思いつくのかねー、というところでしょ。衝撃的な映像だった。どうやって思いついたんだろ? 猪木さんしか知らない」
鹿島「勝ったホーガンがポカンとしていた。それをどう解釈するかですよね。プロレスファンは宿題を突きつけられた。それから、猪木対ブルーザー・ブロディの試合があります。その時代、猪木さんはもうピークを過ぎていて、ブロディはすごい強いということになっていた。両国国技館での試合では、猪木さんのアリキックでブロディの足から血が出てた。でも、翌月の『噂の真相』に(ブロディが)カミソリで足を切ってる写真が載っていた」
小林「ほんとに頭にきたね! 『噂の真相』に頭にきた。そんなこといちいち書くか?! なんのつもりだ?! プロレスファンは100%リアルと思っているのかなんて、そんなつまらん見方してないよ、こちらは! 信じたいんだよ、こっちは! その伝説を信じようと」
鹿島「プロレスファンに与えられた試練。試練です。当時はネットなんてなかったけど、プロレスファンはそんなこと知ってた。プロレスはファンを裏切って、裏切って、裏切ってきた。でも、揺れても、揺れても、翌週はまたプロレスを観てた」
小林「新日本から前田UWFへ。関節技。ロープに飛ばないプロレス……。プロレスは裏切ってくる。個々の試合も裏切ってくる。期待したらひどい試合だったということもあった。猪木が負けた試合のあと、(猪木が)急にコーナーマットを外しはじめたことがあった。猪木のなぞかけ、わけのわからないふるまいにかなりの確率で裏切られてきた(笑)」
鹿島「でも、いつのまにか(プロレスに、猪木に)取り込まれていた。ここを信じよう、それを信じようというのもひとつのプロレスの見方です。でも、私は、ミソもクソも混在してる、半信半疑のジャンルでいいと思うんです、プロレスは」
言論人・小林さんのトークショーだから、やはり時事ネタにスライドしていく。
鹿島「安倍内閣のメディア・コントロールについてはどうですか? “新聞は読売だけあればいい”というスタンスは、かつて長州力が“マスコミは東スポだけあればいい”と発言したのとまったく同じ発想のような気がします」
小林「メディアリテラシーのはなしなんですね。メディアに対して自分がどのくらいの距離で接しているか、ということ。ならば、いままで朝日新聞が教科書だったのか――。そんな読み方するなよと。どの新聞もいいところも悪いところもあって、どの新聞にも誤報はある。それが前提。いまはアンチ朝日じゃないと売れない、ウケない。それしか売らない。いまはとにかく朝日バッシング。それが商売。みんな勝ち馬に乗りたい。勝ち馬に乗ったほうがラク。そういうときは反権力という発想にはなりにくい。それはひじょうに危険な社会構造だから、メディアとは距離をとって――と考えたい」
小林さんはテレビというメディアとの関係を――ストロングスタイル、セメントという――プロレスの言語で語った。
小林「(テレビの画面のなかでは)全部が誘導されていく。ワシが“その役”をやっていいのか――? テレビがワシを“そういう人間”に仕立てようとしてくる。ワシがそれになるとまずい。タレントになっちゃう。『朝まで生テレビ!』はいいけど、バラエティーはまずい。自分の言論に殺気がなくなる。言論の世界のセメントがある。それがワシのなかのストロングスタイルなのです」
いちばん最後にもういちどストロングスタイルという概念を反復したのは、小林さんの“プロレス者”としての自然な感覚だった。鹿島さんは満足そうだった。
蛇足になるが、プチ鹿島さんと本コラム担当・斎藤文彦のトークイベントが10月21日、ニコニコ動画で生中継される。詳細は以下になります。ご興味のある読者のみなさんはこちらもチェックしてみてください。
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『教養としてのプロレス』を上梓したお笑い芸人プチ鹿島さんとプロレスライター斎藤文彦氏が品よ~く語る、秋のプロレス夜噺…。香山リカも優雅~に参戦!
教養としてのプロレス・場外乱闘篇 プチ鹿島×フミ斎藤 レフェリー香山リカ
http://live.nicovideo.jp/watch/lv194625732
10月21日(火)20:00~生放送!
※一部有料108円、チャンネル「香山リカ医院」(http://ch.nicovideo.jp/kayama)会員の方は全篇無料でご覧いただけます。
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文責/斎藤文彦 イラスト/おはつ
※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。
※このコラムは毎週更新します。次回は、10月14~15日頃に掲載予定!
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